ドイツの政治について、「何となく難しそう」「今さら基本を聞きにくい」と感じたことはありませんか?
実は私自身も、ドイツに長く住んでいながら、政治の仕組みをきちんと説明できるかというと、自信がありません。選挙の時期になると、政党名や略称が次々に出てきます。連邦政府、州政府、連立政権、連邦議会……聞いたことはあっても、それぞれがどうつながっているのか、なかなか整理できません。
そこで今回は、なぜか政治に詳しい猫「モモちゃん」に案内役として登場してもらいます。政治が苦手な私に代わって、全体像をつかむための入門編を解説してくれます。

モモ先生、私、政治は正直ちょっと苦手なんだけど……。

大丈夫だにゃ。まずはドイツが「州の力が強い国」だと知るところから始めるにゃ。
キャラ紹介

まいん:ドイツ在住25年の「まいん・どいちゅらんど」運営者。歴史は好きだけど、政治の仕組みは少し苦手。
モモ:まいんの飼い猫。甘えん坊の男の子。なぜかドイツの政治に詳しい?
ドイツは、16の州から成り立つ国

ドイツって、ひとつの国なのに州ごとに祝日が違うの?

そうにゃ。ドイツの州は、ただの地方区分じゃないんだにゃ。そこから見ていくにゃ。
州は日本の都道府県よりも大きな権限を持つ
ドイツはひとつの国ですが、その内側には16の州があります。ドイツ語では、州のことを Bundesland、複数形で Bundesländer といいます。
日本でいえば都道府県に近い区分ですが、政治的な意味合いはかなり違います。ドイツの州は、単なる地方区分ではなく、それぞれが大きな権限を持つ単位です。
ドイツ基本法では、基本法で別に定められている場合を除き、国家権限の行使や国家任務の遂行は州の事項とされています。つまり、ドイツでは最初から「国がすべてを一括で決める」形にはなっていません。国と州が、それぞれの役割を持っている。ここが、ドイツ政治の大きな特徴です。
教育や祝日にも州ごとの違いがある
州の権限が分かりやすく表れるのが、教育や警察、文化に関わる分野です。たとえば学校制度は、州によって違いがあります。教育制度の立法や行政は、主に各州の責任とされており、学校制度、高等教育、成人教育などにも州の権限が大きく関わっています。
ドイツで暮らしていると、州によって学校の休暇時期が違うことに気づきます。祝日にも、全国共通のものと、特定の州だけにあるものがあります。
こうした違いは、単なる地域差ではありません。ドイツでは、州が政治の仕組みの中で大きな役割を持っているため、暮らしに近い部分にも州ごとの違いが表れます。
大統領と首相は、役割が違う

ドイツには大統領も首相もいるの?どっちが政治の中心なの?

そこは役割が違うんだにゃ。ドイツでは首相が政治を進める中心になるにゃ。
大統領は国を代表する立場
ドイツには、大統領と首相がいます。
日本で「大統領」と聞くと、アメリカやフランスのように、政治の中心にいる人物を思い浮かべるかもしれません。しかし、ドイツの場合は少し違います。
ドイツの大統領は、正式には Bundespräsident、日本語では連邦大統領と呼ばれます。大統領は国家元首であり、ドイツという国を代表する立場です。公式行事や外交の場で、国を代表する役割を持ちます。連邦大統領府も、大統領の役割について、国家を体現し代表する立場だと説明しています。
もちろん、大統領には重要な仕事があります。法律への署名、首相の任命、国際的な場での代表など、国家元首としての役割は決して小さくありません。
ただし、日々の政治を直接動かす中心人物という意味では、ドイツの大統領はアメリカ大統領のような存在ではありません。
政治を進める中心は首相
ドイツで政府を率いるのは、首相です。
ドイツの首相は Bundeskanzler、日本語では連邦首相と呼ばれます。首相は政府の基本方針を決め、その責任を負う立場にあります。ドイツ基本法65条でも、連邦首相が政府政策の基本方針を定め、その責任を負うとされています。
かなり大まかに言えば、大統領は「国を代表する人」、首相は「政府を率いて政治を進める人」です。
ドイツの政治を見ていくとき、大統領と首相の役割が分かれていることは、最初に戸惑いやすい部分かもしれません。名前だけを見ると大統領の方が強い権限を持っていそうに感じますが、日々の政治の中心にいるのは首相です。
ドイツでは、複数の政党が政権を作ることが多い

ドイツって、どうしていつも複数の政党が話し合っているの?

それは連立政権が多いからにゃ。ひとつの政党だけで決まることが少ないんだにゃ。
ひとつの政党だけで多数を取るとは限らない
ドイツ政治を分かりにくく感じる理由のひとつに、政党の多さがあります。
ドイツには複数の主要政党があり、選挙の結果によって、さまざまな政党が議会に議席を持ちます。そのため、ひとつの政党だけで議会の多数を占めるとは限りません。
日本の政治に慣れていると、「選挙で勝った政党がそのまま政権を担当する」というイメージを持ちやすいかもしれません。しかしドイツでは、選挙後の政党間の話し合いも大きな意味を持ちます。
どの政党とどの政党が協力するのか。
どの政策で合意できるのか。
どこまで歩み寄れるのか。
こうした交渉を経て、政府の形が決まっていきます。
連立政権は、複数の政党が協力する形
複数の政党が協力して作る政権を、連立政権といいますが、ドイツではこの連立政権がよく見られます。ひとつの政党だけで政治を進めるのではなく、複数の政党が合意を作りながら政府を運営していく形です。
この仕組みには、時間がかかる面があります。意見の違う政党同士が協力するため、政策をまとめるには話し合いが必要になります。一方で、複数の政党が関わることで、さまざまな立場や考え方が政治に反映されやすい面もあります。
ドイツの連邦議会選挙では、有権者は2票を持っています。ひとつは選挙区の候補者に投票する票、もうひとつは政党に投票する票です。
この仕組みによって、選挙結果には複数の政党への支持が反映されやすくなります。そのため、ひとつの政党だけで政権を作るよりも、選挙後の話し合いによって政権の形が決まることが多くあります。
国民の代表と、州の代表がいる

Bundestag と Bundesrat って、名前が似ていて分かりにくいわね。

似てるけど役割は違うにゃ。ひとつは国民の代表、もうひとつは州の代表だにゃ。
国民が選ぶ連邦議会 Bundestag
ドイツには、国民が選ぶ議会があります。これが Bundestag、日本語では連邦議会です。Bundestag は、国民の選挙によって選ばれた議員で構成されます。法律を作り、政府の仕事をチェックし、首相の選出にも関わる重要な機関です。
連邦議会の公式サイトでも、Bundestag は国民によって選ばれ、国の政策について異なる意見が議論される場であり、重要な役割として立法と政府の監視が挙げられています。
日本語で「ドイツの議会」と言う場合、多くの場合この Bundestag を指します。
州の立場を反映する連邦参議院 Bundesrat
ドイツの政治には、もうひとつ重要な仕組みがあります。それが Bundesrat、日本語では連邦参議院です。Bundesrat は、国民が直接選んだ議員で構成される議会ではありません。各州政府の代表が参加し、州の立場を国の政治に反映させるための機関です。
Bundesrat の公式説明では、州の政治的・行政的な経験を連邦の立法や行政に取り入れる役割が説明されています。 また、ドイツ基本法50条では、州は Bundesrat を通じて連邦の立法・行政、そしてEUに関する事項に参加すると定められています。
Bundestag が国民の代表であるのに対し、Bundesrat は州の代表です。
ドイツでは、国民の声だけでなく、州の声も国の政治に関わっています。これは、16の州が大きな権限を持つドイツの政治制度と深くつながっています。
州首相という存在もある

州にも首相がいるの?国の首相とは別なの?

別だにゃ。ドイツでは州ごとの政治もかなり大事なんだにゃ。
州ごとに政府がある
ドイツには、国全体の首相とは別に、州ごとのトップもいます。これが Ministerpräsident *注 日本語では州首相と呼ばれる存在です。州首相は、それぞれの州政府を率いる立場にあります。
たとえば、ヘッセン州にはヘッセン州の政府があり、バイエルン州にはバイエルン州の政府があります。それぞれの州には独自の政治があり、そのトップに立つのが州首相です。
第1章で見たように、ドイツでは州が大きな権限を持っています。教育、警察、文化、行政など、暮らしに近い分野にも州政治が関わります。そのため、ドイツでは国の政治だけでなく、州の政治も重要です。
*注:多くの州では州政府のトップを Ministerpräsident と呼びますが、ベルリン、ハンブルク、ブレーメンのような都市州では別の肩書きが使われます。
州政治は国の政治にもつながる
州の政治は、州の中だけで完結しているわけではありません。各州政府の代表は Bundesrat に参加します。そのため、州でどの政党が政権を持っているかは、連邦レベルの政治にも影響します。
たとえば、州の利害に大きく関わる法案では、Bundesrat の同意が必要になる場合があります。そのため、各州政府の立場は、連邦レベルの法律にも影響することがあります。
ドイツの政治が複雑に見える背景には、この国と州の関係があります。国全体の政治と、州ごとの政治が、別々に存在しながらもつながっているのです。
ドイツ政治は、権限を分けて進める仕組み

国、州、首相、議会、政党……いろいろ出てきて、やっぱりちょっと複雑……。

そうにゃ。ドイツは「権限を一か所に集めず、分けながら進める」のが基本にゃ。昔、一部の人に力が集中しすぎて大変なことになった歴史があるから、二度と誰かが独走できないように、あえて手間がかかる仕組みにしてるんだにゃ。
国と州、政府と議会がそれぞれ役割を持つ
ここまで見てきたように、ドイツの政治は、ひとつの場所に権限が集中しにくい仕組みになっています。
- 国と州が役割を分けています。
- 大統領と首相にも、それぞれ違う役割があります。
- 国民が選ぶ連邦議会があり、州の立場を反映する連邦参議院もあります。
- 政府は複数の政党による連立政権になることが多く、政党同士の合意も必要になります。
この仕組みは、外から見ると少し分かりにくく感じられます。物事が決まるまでに時間がかかるように見えることもあります。ただ、その背景には、一か所で全部を決めるのではなく、国と州、政府と議会、複数の政党が関わりながら政治を進める構造があります。
一か所で全部を決めない仕組み
ドイツの政治を細かく見ていくと、選挙制度、政党、連邦議会、連邦参議院、州政府など、さまざまな要素が出てきます。
最初からすべてを理解しようとすると、かなり複雑です。けれど、全体の土台にあるのは、「権限を一か所に集めない」という考え方です。国と州が役割を分け、議会と政府がそれぞれの役割を持ち、複数の政党が話し合いながら政治を進めていく。
- 州ごとに制度や祝日が違うこと。
- 連立政権が多いこと。
- 政治の決定に時間がかかること。
それらは別々の話に見えて、実は同じ仕組みの上にあります。ドイツの政治は、権限を分け、話し合いながら決めていく仕組みです。そう考えると、複雑に見える制度の輪郭も、少し見えやすくなります。
おわりに
ドイツの政治は、細かく見ていくと複雑ですが、基本のしくみだけでも知っておくと、少し見え方が変わります。
今回はモモちゃんに助けてもらいながら、私自身もあらためて勉強になりました。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

これで基本のしくみの解説は終わったにゃ。まいんにもちょっとは分ったかにゃ?ドイツに住むなら、政治にも関心を持つべきにゃ。

うん、ありがとねモモ先生。とっても勉強になったよ。

またもっと知りたくなったら僕を呼ぶにゃ。
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