2026年7月2日、Friedrich Merz首相(CDU)率いる連立政権(CDU/CSUとSPD)が、「経済活性化に向けた改革案」を発表しました。税制や年金、雇用に関するさまざまな内容が含まれる中で、ドイツで働く人々にとって特に気になるのが、病欠(Krankschreibung)に関する新しいルール案です。

「病欠1日目から診断書が必要になるのか?」と、SNSでも大きな話題になっています。現時点で分かっている内容を整理します。
ドイツの病欠制度について
現行の制度
ドイツでは、病気で仕事を休む場合、日本と違って有休消化する必要はなく、病欠扱いとして申請します。しかしそれにもきちんとしたルールがあります。
まず勤務先に病欠の連絡をします。病欠が4日目に入る場合、医師による診断書(Arbeitsunfähigkeitsbescheinigung / AU)が必要です。病欠日数は暦日で数えられるため、土日も日数に含まれます。例えば金曜日から休み、土日を挟んで月曜日も休む場合は4日目となり、医師の診断書が必要になります。また、勤務先によっては、雇用契約や社内ルールにより、1日目から診断書の提出を求めることもできます。
電話でのKrankschreibung(電話診断書)も新型コロナ流行時に感染防止のため導入され、現在も利用されています。かかりつけ医が患者を把握していて、軽症であり、医師が電話診断で問題ないと判断した場合に最長5日間まで取得が可能です。
改革案
- 2027年1月から、病欠の初日から医師の診断書(AU) を提出しなければならない。
- これまで診断書は、法律上は4日目(3暦日超)から必要で、雇用主が契約などで1日目から要求できる場合もあったが、今後は全国的に1日目から提出が義務化される。
- 電話でのKrankschreibung(電話診断書) を完全に廃止。
改革案が出された理由
政府側の説明
政府側は、パンデミック後の病欠率の高さを問題視しています。病欠による企業側の負担が大きくなり、国際競争力にも影響しているという考えです。
Merz首相は、長期間の欠勤による競争力低下をこれ以上許容できないと述べ、企業側の負担軽減と、いわゆる「Blaumacher(仮病で休む人)」の防止を理由に挙げています。
実際の運用
現行の制度では、法律上は病欠4日目から診断書が必要ですが、多くの企業では社内ルールによって柔軟に運用されている場合が多く、かかりつけ医による電話診断書も、比較的容易に利用できることが問題視されています。今回の改革案では、こうした柔軟な運用が病欠率を上げているとの見解で、より厳しくする方向が示されています。
改革案に対する世間の反応
批判の声
今回の改革案に対しては、医療関係者や労働組合などから反対や懸念の声が上がっています。例えば、医師側からは「診療所が混雑する」「現実的ではない」といった意見が出ています。また、労働組合(IG Metallなど)も、労働者の負担が増えるとして反対しています。
さらに、一部の専門家からは、「電話診断書が病欠増加の主な原因であるという明確な証拠は乏しい」として、今回の改革の効果を疑問視する意見も出ています。
懸念点
ドイツでは、医者の予約が数か月先しか取れないという状態が恒常化しています。病欠1日目から診断書が必要になった場合、かかりつけ医のない患者などは、どこで診断書をもらうのか?という問題が発生します。
また、2~3日休めば回復する程度の風邪などで、診断書をもらうために診療所の待合で数時間待たされた場合、本人の病状が悪化し、かつ周囲に感染のリスクが高まります。
どうしても診断書が取れないので仕方なく出社した場合、病状悪化、周囲への感染リスクが高まり、最終的には企業負担が増大する可能性が考えられます。
正式に決定されるのはいつ?

今の段階では、まだ連立政権内で「こういう方向で進める」と合意した段階です。実際の法律として成立するには、今後さらにいくつかの手続きがあります。
実際の法律として成立するまでの流れ
| 流れ | 内容 |
|---|---|
| ① 法案の作成 | 関係省庁が、労働・保健・社会保険に関する法律をどのように変更するのか、条文の形に落とし込みます。 |
| ② Bundesratへ送付 | 政府提出の法案として進める場合、まず連邦参議院(Bundesrat)に送られ、各州の立場から意見が出されます。 |
| ③ Bundestagで審議 | その後、連邦議会(Bundestag)で審議され、読会や委員会審議を経て、可決・否決が決まります。 |
| ④ 再びBundesratへ | Bundestagで可決されたあと、法案は再びBundesratに送られます。法律の種類によっては承認が必要になり、承認不要の法律でも異議を申し立てることがあります。 |
| ⑤ 公布・施行 | これらの手続きをすべて終えて法律が成立すると、公布され、施行日が決まります。 |
2027年1月から実施されるのか?
今回の病欠制度の変更については、2027年1月からの実施が目指されています。ただし、現時点ではまだ正式決定ではありません。今後、具体的な法案が作られ、議会で審議される中で、最終的な内容が決まることになります。
そのため、病欠1日目からの診断書提出がすべての労働者に義務化されるのか、電話診断が完全に廃止されるのか、会社ごとの例外や柔軟な運用が認められるのかについては、今後の法案内容を確認する必要があります。

まじめに働いている人にとっては、かなり不利な変更になりそうです。なんとか否決されないかなと願っています。
おわりに
今回の記事の中に、連邦参議院(Bundesrat)や連邦議会(Bundestag)という言葉が出てきました。ドイツの政治の仕組みについては、こちらの記事で詳しく書いています。
🏡ドイツの日常生活や社会のしくみ、現地での暮らしに役立つ情報は[ドイツ生活と文化カテゴリー]にまとめています。生活の知恵から文化的な習慣まで、実際に暮らす目線で分かりやすく紹介していますので、滞在中の参考にぜひご覧ください。


