『まいん・どいちゅらんど YouTubeチャンネル』が開設されました。観光地の映像や現地写真のスライドショー、便利なドイツ語フレーズなどを公開していきます。今回は立ち上げを記念して、すでにパブリックドメインとなっている1922年のドイツ映画『ノスフェラトゥ』に独自の日本語字幕を付け、全編公開しました。

『ノスフェラトゥ』は、ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』を、登場人物の名前を変えて無断で映画化した問題作です。公開から100年以上が経った今も、その不気味な映像美は多くの映画ファンを惹きつけています!

『ノスフェラトゥ』とは
ドイツ表現主義を代表するサイレント・ホラー映画

『ノスフェラトゥ』(原題 Nosferatu – Eine Symphonie des Grauens/恐怖の交響曲)は、F・W・ムルナウ監督により1922年に公開されたドイツのサイレント・ホラー映画です。脚本はヘンリック・ガレーンが手がけ、マックス・シュレックが吸血鬼オルロック伯爵を演じました。
光と影を強調した映像、異様に長い指を持つ伯爵の姿、壁に伸びる不吉な影は、ドイツ表現主義映画を象徴するイメージとして知られています。本作は、現存する最古の長編吸血鬼映画のひとつとされ、オルロック伯爵の造形や影を使った演出は、その後の吸血鬼映画やホラー作品に大きな影響を与えました。
どんな物語か
ドイツの港町で妻エレンと暮らす青年フッターは、不動産業者ノックのもとで働いています。ある日、遠く離れたトランシルヴァニアに住むオルロック伯爵が、ヴィスボルクに屋敷を購入することになり、フッターは契約をまとめるため伯爵の城へ向かいます。
地元の人々が伯爵の城を恐れていることを不思議に思いながらも、フッターは旅を続けます。しかし、城で彼を迎えたオルロック伯爵には、どこか人間離れした不気味さがありました。夜ごとに起こる奇妙な出来事を通して、フッターは次第に伯爵の正体に気づいていきます。
『ドラキュラ』から人物名や舞台設定を変更しながら、吸血鬼の恐怖に疫病のイメージを重ねたことが、本作独自の特徴です。物語の舞台はやがて孤立した古城から町全体へと広がり、静かな日常が少しずつ不安に覆われていく様子が描かれます。
登場人物
オルロック伯爵

トランシルヴァニアの古城に住む謎の貴族で、その正体は人間の血を吸う吸血鬼。ヴィスボルクに屋敷を購入するため、不動産業者の青年フッターを城へ招き、契約の席で妻エレンの肖像に目を留めます。
マックス・シュレックが演じたその姿は、後世に定着した「魅惑的で貴族的なドラキュラ」とは大きく異なります。禿げた頭、尖った耳、長い爪、痩せた身体、ネズミを思わせる歯。『ドラキュラ』を下敷きにしながら、誘惑者ではなく、腐敗や疫病、死を思わせる怪物として造形された特異な吸血鬼像です。
トーマス・フッター

ヴィスボルクで妻エレンと暮らす、不動産業者ノックの若い助手。オルロック伯爵の屋敷購入契約をまとめるため、トランシルヴァニアの古城へ向かいます。明るく楽天的な青年ですが、城で奇妙な出来事に遭遇し、伯爵の正体と故郷に迫る危険に気づいていきます。
フッターを演じたのはグスタフ・フォン・ヴァンゲンハイム。表情や身振りを大きく使ったサイレント映画らしい演技で、未知の土地への期待が恐怖と焦りへ変わっていく様子を表現しています。
エレン・フッター

ヴィスボルクでフッターと暮らす妻。夫を深く愛し、彼がオルロック伯爵の城へ向かった後も、彼の身に迫る危険を遠くから感じ取ります。繊細で不安を抱えやすい一方、物語が進むにつれて強い意志を見せる重要な人物です。
エレンを演じたのはグレタ・シュレーダー。印象的な表情と身振りによって、夫を案じる不安やオルロック伯爵への恐怖を表現しています。
『ノスフェラトゥ』日本語字幕版
映画史での位置づけとその経緯
なぜ映画史で重要なのか
本作は、ドイツ表現主義映画を代表する作品のひとつです。ただし、『カリガリ博士』のように極端に歪められた書き割りやセットで非現実的な世界を作るのではなく、実在の街並みや自然の風景を舞台に、光と影、構図、俳優の動きによって日常の中に不気味な空気を生み出しました。
なかでも、階段を上るオルロック伯爵の巨大な影は、映画史を代表するホラー・イメージとして知られています。怪物を直接見せるだけでなく、影によってその存在と恐怖を感じさせる演出は、その後のホラー映画や吸血鬼映画に大きな影響を与えました。
消滅しかけた映画
製作会社プラナ・フィルムは、ブラム・ストーカーの小説『ドラキュラ』の映画化権を取得せず、登場人物の名前や舞台設定を変更して本作を製作しました。しかし、ストーカーの死後に著作権を管理していた妻フローレンス・ストーカーが著作権侵害を訴えます。プラナ・フィルムはほどなく破産し、裁判では最終的に、フィルムのネガとすべてのコピーを破棄するよう命じる判決が下されました。
しかし、すでに国外へ渡っていたプリントなどが残っていたため、本作は完全な消滅を免れ、現在まで受け継がれています。
後世への影響
『ノスフェラトゥ』は、後の映画人によって何度も新たな形で解釈されてきました。1979年には、ヴェルナー・ヘルツォーク監督がクラウス・キンスキーを吸血鬼役に迎え、『ノスフェラトゥ』を再映画化しています。
2000年の『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』では、本作の撮影現場を舞台に、「オルロック伯爵を演じたマックス・シュレックは、本物の吸血鬼だった」という架空の物語が描かれました。さらに2024年には、ロバート・エガース監督によって再び映画化されています。
単なる映像表現の引用にとどまらず、作品そのものが繰り返し再解釈されていることからも、『ノスフェラトゥ』が映画史に残した影響の大きさが分かります。公開から100年以上を経た現在も、吸血鬼映画の原点のひとつとして高く評価され続けています。
パブリックドメインと二次利用について
本作は、ドイツ著作権法で定められた映画作品の保護期間が満了しており、現在はパブリックドメインとなっています。ウィキメディア・コモンズなどで公開・配布されている本作のパブリックドメイン映像は、どなたでも利用できます。ただし、「まいん・どいちゅらんど」YouTubeチャンネルで公開している動画に付けた日本語字幕は、筆者が独自に翻訳・制作したものです。字幕の転載・転用・再配布などの二次利用はご遠慮ください。

需要があれば、また別の作品の日本語字幕版も制作しますね。けっこう大変な作業だったので、動画のいいねやチャンネル登録で応援していただけるとうれしいです!
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