【ドイツの偉人・有名人】第6回 グリム兄弟|ドイツの言葉と物語を残した学者兄弟

バウハウス風に描かれたグリム兄弟 ドイツの偉人・有名人
グリム兄弟

「グリム兄弟」と聞くと、まず思い浮かぶのは『白雪姫』『赤ずきん』『ヘンゼルとグレーテル』などの童話ではないでしょうか。日本でも『グリム童話』はとても有名で、子どもの頃に読んだことがある人も多いと思います。

しかしグリム兄弟は単に「童話を書いた人たち」ではありません。実際には、昔話や民間伝承を集め、ドイツ語や古い文献を研究し、ドイツ文化の記憶を後世に残した学者兄弟でした。

まいん
まいん

この記事では、グリム兄弟の生涯と業績、そしてドイツ文化に残した足跡をたどります。

グリム兄弟とは?

ヤーコプとヴィルヘルム

グリム兄弟のポートレート
グリム兄弟 ヴィルヘルム(左)とヤーコプ (右)*1

グリム兄弟とは、兄のヤーコプ・グリム(Jacob Grimm)と、弟のヴィルヘルム・グリム(Wilhelm Grimm)のことです。兄のヤーコプは1785年、弟のヴィルヘルムは1786年に、現在のヘッセン州ハーナウ(Hanau)で生まれました。ふたりは年齢も近く、生涯にわたって深く結びつきながら研究を続けた兄弟でした。

グリム兄弟の生まれたハーナウの街歩きについては、こちらの記事で詳しく紹介しています。

法学から言葉と物語の研究へ

父は法律家で、グリム兄弟も若い頃はマールブルク大学(Universität Marburg)で法学を学びます。しかし大学で出会った学者たちの影響を受け、やがて関心は法律から古い文献や言葉の研究へと向かっていきました。

その後、ふたりは図書館員や大学教授として働きながら、昔話、言語、神話、古い文学作品などを幅広く研究していきます。

『グリム童話』はどのように生まれたのか

『Kinder- und Hausmärchen』の出版

グリム兄弟の名前を世界的に有名にしたのが、『グリム童話』です。正式な題名は、ドイツ語で『Kinder- und Hausmärchen』。日本語にすると「子どもと家庭のための童話集」といった意味になります。第1巻は1812年、第2巻は1815年に出版されました。

『グリム童話』初版第1巻の表紙
『グリム童話』初版第1巻の表紙*2

代表的な話には、『赤ずきん』『白雪姫』『ヘンゼルとグレーテル』『眠れる森の美女』『ブレーメンの音楽隊』などがあります。どれも今では世界中で知られる物語です。ただし、最初から現在のような「子ども向けの童話集」だったわけではありません。版を重ねるなかで文章は整えられ、家庭で読まれる本としての性格が強くなっていきました。

創作ではなく、昔話の収集と編集

グリム兄弟は、これらの物語を一から創作したわけではなく、各地に伝わる昔話や民話を集め、それを編集して本にまとめたのです。

また、グリム兄弟が昔話を「素朴な農民から直接聞き取った」というイメージもありますが、実際には市民階級や貴族階級の女性たちが重要な語り手となっていました。彼女たちが家庭内や周囲から聞いた話を、グリム兄弟に伝えたのでした。

童話作家ではなく、文献学者・言語学者だった

日本では「グリム兄弟=童話の人」という印象が強いですが、ドイツ文化史の中で見ると、彼らはむしろ文献学者・言語学者として重要な人物です。

兄弟で取り組んだドイツ語と昔話の研究

グリム兄弟は、昔話や民間伝承を集めただけでなく、ドイツ語や古い文献の研究にも取り組みました。その代表的な仕事のひとつが、巨大なドイツ語辞典『Deutsches Wörterbuch』の編纂です。この辞典は兄弟の生前には完成せず、後の研究者たちに引き継がれていきました。

『Deutsches Wörterbuch』第1巻の表紙
『Deutsches Wörterbuch』第1巻の表紙 *3

また、彼らが集めた昔話や伝承も、単なる娯楽としてのお話ではありませんでした。そこには、人々の間に残っていた古い言葉、考え方、暮らしの記憶が含まれていました。

童話だけでなく、言葉や物語そのものを研究し、ドイツ語圏の文化をたどろうとしたところに、グリム兄弟の学者としての大きな姿があります。

ヤーコプ・グリムの言語研究と『ドイツ神話』

特に兄のヤーコプ・グリムは、ドイツ語やゲルマン語の歴史を研究した学者として知られています。彼の著作『Deutsche Grammatik』(ドイツ語文法)は、ドイツ語を歴史的に研究するうえで大きな意味を持ちました。

また、言語学では「グリムの法則(Grimm’s law)」という言葉もあります。これは、古いインド・ヨーロッパ語族の音がゲルマン語でどのように変化したかを説明する法則です。ヤーコプは「言葉は偶然に変わるのではなく、一定の規則を持って変化していく」と考え、その研究を進めたのです。

ヤーコプの関心は、言語だけにとどまりませんでした。彼は『Deutsche Mythologie』(ドイツ神話学)も著しています。そこでは、古いゲルマン・ドイツ語圏の神話、信仰、伝承などが研究されました。19世紀には、こうした神話や伝承への関心が高まり、ワーグナーは楽劇『ニーベルングの指環』を構想する過程で、ヤーコプの『Deutsche Mythologie』も読んでいたとされています。

ゲッティンゲン七教授事件――信念を貫いた学者たち

グリム兄弟には、童話や学問とは少し違う面でも有名な出来事があります。それが、1837年の「ゲッティンゲン七教授事件」です。

当時、グリム兄弟はゲッティンゲン大学(Universität Göttingen)で教授や図書館員として働いていました。ところが、ハノーファー王エルンスト・アウグストが憲法を停止したことに対し、大学の7人の教授が抗議します。その7人の中に、ヤーコプとヴィルヘルムも含まれていました。

抗議の結果、彼らは職を失い、ヤーコプは国外退去処分まで受けることになります。生活の安定を考えれば、抗議しないという選択もあったはずです。それでも彼らは、自分たちの信じる立場を貫きました。この出来事を見ると、グリム兄弟が単なる童話の編者ではなく、学問と社会に向き合った知識人でもあったことがわかります。

ベルリンでの晩年と兄弟の最期

ゲッティンゲンを離れた後、グリム兄弟はしばらく不安定な時期を過ごしますが、1840年にプロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム4世に招かれ、ベルリンへ移ります。ベルリンでは、ふたりはプロイセン科学アカデミーの会員となり、研究と執筆を続けました。

グリム兄弟の横顔肖像画
1843年に描かれた肖像画。左がヴィルヘルム、右がヤーコプ。*4

ヴィルヘルム・グリムの晩年

弟のヴィルヘルム・グリムは、兄ヤーコプに比べると体が弱く、若い頃から健康に不安を抱えていたといわれています。一方で、彼は兄弟の中でも文章を整える力にすぐれ、『グリム童話』が読みやすい形になっていくうえで大きな役割を果たしました。

ヴィルヘルムは1825年、ドロテア・ヴィルト(Dorothea Wild)と結婚します。ヴィルヘルム夫妻は、生涯独身だったヤーコプと一緒に暮らし、兄弟は家庭生活の中でも近い距離を保ち続けました。ヴィルヘルムは1859年12月16日、ベルリンで亡くなりました。享年73歳でした。

ヤーコプ・グリムの晩年

兄のヤーコプ・グリムは、生涯結婚せず、研究に打ち込んだ人物でした。ヴィルヘルムの死後も、ヤーコプはドイツ語やゲルマン語の研究、神話や法制史の研究、そして『Deutsches Wörterbuch』の編纂を続けます。

兄弟で長く続けてきた研究は、弟の死によってひとつの区切りを迎えましたが、ヤーコプはその後も仕事を手放しませんでした。1863年9月20日、ヤーコプもベルリンで亡くなります。享年78歳でした。『Deutsches Wörterbuch』は兄弟の生前には完成せず、後の研究者たちによって長く引き継がれていきました。

兄弟の足跡

ドイツにはグリム兄弟ゆかりの場所が数多くありますが、ここでは生誕地、研究活動、晩年に関わる代表的なスポットを3つ紹介します。

生誕の地、ハーナウのグリム兄弟の像

ハーナウ マルクト広場のグリム兄弟の像
グリム兄弟の像(筆者撮影)

兄弟の生誕地ハーナウのマルクト広場に立つ銅像です。メルヘン街道の出発点でもあり、水曜と土曜には広場で週市が立つ、地元民の憩いの場です。

📍 Marktplatz, 63450 Hanau / 入場料:無料(屋外スポット)

研究の中心地、カッセルのGRIMMWELT

カッセルの GRIMMWELT Kassel
カッセルの GRIMMWELT Kassel *5

カッセル(Kassel)にあるGRIMMWELTは、グリム兄弟の生涯や『グリム童話』、言語研究の歩みを紹介する博物館です。童話だけでなく、学者としてのグリム兄弟を知ることができるスポットです。

📍Weinbergstraße 21, 34117 Kassel
営業時間:10:00-18:00(火~日)月曜休館
入場料:大人10ユーロ(2026年6月現在)🌐公式サイト(英)

終焉の地、旧聖マテウス墓地(Alter St.-Matthäus-Kirchhof)

ベルリンにあるグリム兄弟の墓
兄弟が眠る墓地 *6

ベルリンの旧聖マテウス墓地(Alter St.-Matthäus-Kirchhof)には、ヤーコプとヴィルヘルム・グリムの墓があります。墓地はシェーネベルク地区にあり、兄弟は並んで眠っています。

📍Großgörschenstraße 12–14, 10829 Berlin

おすすめの書籍

『グリム ドイツ伝説集』は、グリム兄弟が集めたドイツ各地の伝説を収めた本です。童話とはまた違う、城や山、妖精、魔女、歴史にまつわる古い物語を読むことができます。グリム兄弟の仕事をもう少し深く知りたい方におすすめです。

200年の時を超えて甦る—グリム兄弟の壮大なる企て! 民族と歴史の襞に分け入る試行 完全新訳による585篇と関連地図を収録。上巻では伝説1〜363までを収録する。
200年の時を超えて甦る—グリム兄弟の壮大なる企て! 民族と歴史の襞に分け入る試行 完全新訳による585篇と関連地図を収録。下巻では伝説364〜585などを収録する。

おわりに

私自身も、子どもの頃に『グリム童話』をよく読んでいました。絵本だけでなく、ディズニー映画などを通して、グリム兄弟の物語に触れた人も多いのではないでしょうか。一時期は「本当は怖いグリム童話」という切り口も話題になりました。

けれども、グリム兄弟の仕事は、童話を本にまとめるだけではありませんでした。昔話や民話、言葉や神話、古い伝承を集め、現在まで読まれ、研究される形で残したことこそ、彼らの大きな功績だったのだと思います。

まいん
まいん

「まいん・どいちゅらんど」では、グリム童話の翻訳も計画しています。やりたいことがどんどん溢れてくる、ドイツって本当にステキ♡

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📚ドイツには、音楽や芸術、科学や政治など、さまざまな分野で世界に名を残した人たちがいます。彼らの生涯や功績を紹介する記事は、[ドイツの偉人・有名人カテゴリー]にまとめています。

画像出典:
*1 By Hermann Biow – [1], Public Domain, Link

*2 Public Domain, Link
*3 By Brothers Grimm, Verlag von S. Hirzel, Leipzig – Scan by Raimond Spekking, Public Domain, Link
*4 By After Ludwig Emil Grimmhttp://www.expedition-grimm.de/de/presse/pressefotos.html, Public Domain, Link
*5 By Alraunenstern – Own work, CC BY-SA 4.0Link
*6 Von StMatthaeus – Eigenes Werk, CC BY-SA 4.0, Link

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