
「ローレライ」は、日本でもよく知られているドイツ歌曲のひとつです。そのもとになっているのが、ドイツの詩人ハインリヒ・ハイネの詩「Die Lore-Ley」。ライン川の岩山にまつわる伝説を題材に、美しい乙女の歌声と、船乗りを待つ悲劇が短い詩の中に描かれています。
この記事では、ハイネの「ローレライ」をドイツ語原文と筆者による日本語訳で紹介し、あわせてローレライ伝説や歌曲として広まった背景も見ていきます。

小学生の頃、学校で歌った「ローレライ」の美しい訳詞とメロディーは今でも心に残っています。
まずは冒頭の一節を読む
まずは、冒頭の一節を原文と日本語訳で見てみましょう(和訳:まいん)
Ich weiß nicht, was soll es bedeuten,
Daß ich so traurig bin;
Ein Mährchen aus alten Zeiten,
Das kommt mir nicht aus dem Sinn.
意味が分からない。
どうして、私はこんなに悲しいのか。
古い昔の物語が、
どうしても心から離れない。
この詩は、「意味が分からない」という、不思議な心の揺れから始まります。まだローレライの姿は出てきません。けれども、語り手の心にはすでに、古い昔の物語が深く入り込んでいます。

日本では近藤朔風の名訳があまりにも有名ですが、ここでは直訳に近づけて、原詩の流れを追ってみます。
ローレライ伝説とハイネの詩
ローレライとは何か
ローレライ(Loreley / Lore-Ley)は、ドイツ西部を流れるライン川沿いにある岩山の名前です。場所は、ライン川中流域のザンクト・ゴアールスハウゼン近く。川が大きく曲がるあたりにそびえる岩山で、現在では「ライン川クルーズ」の見どころのひとつにもなっています。

この場所には、美しい乙女が岩の上に座り、歌声で船乗りを惑わせるという伝説があります。船乗りはその歌声と姿に心を奪われ、川の岩礁や流れへの注意を失い、やがて船もろとも波に呑まれてしまう――。ライン川の風景、岩山、船乗り、そして美しい乙女の歌声。ローレライは、そうしたイメージが重なって語り継がれてきた伝説です。
ローレライ周辺は、ライン川の難所で、船にとって危険な場所でもありました。だからこそ、船乗りへの警告としてこのような伝説が作られたのかも知れません。
ハイネが描いた「ローレライ」

このローレライ伝説を題材にした詩が、ハインリヒ・ハイネの「Die Lore-Ley」です。
ハイネの詩は、伝説の由来を細かく説明するものではなく、伝説に対する語り手の気持ち、そして夕暮れのライン川、山の上で黄金の髪を梳く乙女、その歌に心を奪われる船乗りへと、場面が静かに移っていきます。
美しい乙女ローレライは、岩山の上に座り、髪を梳き、歌っています。そしてその歌声は船乗りの心をつかみます。船乗りは目の前の岩礁を見ず、ただ上の方を見つめ、やがて波に呑まれていくのです。その伝説が心から離れない語り手の気持ちが描かれた詩です。
日本でも知られる「ローレライ」の歌
ジルヒャーの旋律で広まった「ローレライ」
このハイネの詩は、歌曲としても広く知られるようになりました。現在、一般に「ローレライ」として広く親しまれている旋律は、ドイツの作曲家フリードリヒ・ジルヒャーが1837年に作曲したものです。日本でも「なじかは知らねど……」で始まる歌として知られていますが、その背景には、ハイネの詩とジルヒャーの歌曲があります。
多くの作曲家が曲をつけたハイネの詩
19世紀には、この詩のテキストに40以上の歌曲版が作られたとされています。その中で、最も広く知られるようになったのがジルヒャーの旋律でした。フランツ・リストやクララ・シューマンも、この詩に曲をつけた作曲家の一人です。
ハイネのこの詩は、それだけ多くの作曲家にとって、音楽にしたくなる言葉だったのでしょう。ライン川の夕暮れ、美しい乙女の姿、船乗りをのみ込む不穏な流れ――短い詩の中に広がる情景が、読む人の心を強くつかむのです。
ハイネ「ローレライ」原文と日本語訳

ではここからは、ハイネの「Die Lore-Ley」を全文通して読んでみましょう。
(和訳:まいん)
Ich weiß nicht, was soll es bedeuten,
Daß ich so traurig bin;
Ein Mährchen aus alten Zeiten,
Das kommt mir nicht aus dem Sinn.
意味が分からない。
どうして、私はこんなに悲しいのか。
古い昔の物語が、
どうしても心から離れない。
Die Luft ist kühl und es dunkelt,
Und ruhig fließt der Rhein;
Der Gipfel des Berges funkelt
Im Abendsonnenschein.
空気は冷たく、あたりは暗くなり、
ライン川は静かに流れている。
山の頂はきらめいている、
夕焼けの中で。
Die schönste Jungfrau sitzet
Dort oben wunderbar;
Ihr gold’nes Geschmeide blitzet,
Sie kämmt ihr gold’nes Haar.
この上なく美しい乙女が、
その上に不思議な姿で座っている。
彼女の黄金の飾りは輝き、
彼女は黄金の髪を梳いている。
Sie kämmt es mit gold’nem Kamme,
Und singt ein Lied dabei;
Das hat eine wundersame,
Gewaltige Melodei.
彼女は黄金の櫛で髪を梳き、
そのかたわらで歌を歌っている。
その歌には、不思議な、
力強い旋律がある。
Den Schiffer im kleinen Schiffe
Ergreift es mit wildem Weh;
Er schaut nicht die Felsenriffe,
Er schaut nur hinauf in die Höh’.
小さな船の船乗りは、
激しい胸の痛みとともに、心をつかまれる。
彼は岩礁を見ず、
ただ、上の方ばかりを見てしまう。
Ich glaube, die Wellen verschlingen
Am Ende Schiffer und Kahn;
Und das hat mit ihrem Singen
Die Lore-Ley gethan.
私は思う。波は最後には、
船乗りと小舟を呑み込んでしまうのだろう。
それは、彼女の歌による
ローレライの仕業だろう。
※原文は古い表記を含む版に合わせていて、現代表記では一部の綴りが異なる場合があります。
歌で聴く「ローレライ」
最後に、ハイネの「ローレライ」をドイツ語の歌で聴いてみましょう。よく知られているのは、ジルヒャー作曲の旋律ですが、クララ・シューマンも同じ詩に曲をつけています。同じ詩でも、雰囲気がかなり変わるのでぜひ聞き比べてみてください。
ジルヒャー作曲版
クララ・シューマン作曲版
おわりに
子供の頃、実家の古い百科事典で「ローレライ伝説」を初めて読んだ時のことを、今でも覚えています。夕暮れのライン川、岩の上の乙女、そして静かな恐怖が一挙に私の胸を鷲掴みにしました。そして、何度も口ずさんだその歌の原詩を、いつかドイツ語で理解できる日がくるなんて想像もしませんでした。
これからも、ハイネの詩や、その他日本でよく知られているドイツの文学作品を紹介していきたいと思います。

私の中の「ドイツ」は、ローレライから始まったのかも知れませんね。
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画像出典:
*1 Von de:Edmund Brüning – de:Buch der Lieder (Heine), Gemeinfrei, Link
*2 Jörg Braukmann – 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, リンクによる
*3 By Moritz Daniel Oppenheim – 1. germanhistorydocs.ghi-dc.or2. Bridgeman Art Library: Object 149505, Public Domain, Link


