第2回【くるみ割り人形とねずみの王様】|題名は知ってるドイツ語文学

『くるみ割り人形とねずみの王様』イメージ画像 ドイツ文学と翻訳
『くるみ割り人形とねずみの王様』

チャイコフスキーのバレエで世界的に知られる『くるみ割り人形』の原作は、1816年に発表されたドイツ文学です。バレエ版では、クリスマスの夜に主人公が見た美しく素敵な夢だった、という終わり方が多いですが、原作の方はもっと、現実と幻想が融合したラストが待っています。

まいん
まいん

今回は、『くるみ割り人形とねずみの王様』をネタバレありで最初から最後までご紹介します。

シリーズ【題名は知ってるドイツ語文学】

題名だけは知っている。
いつか読もうと思っていた。
でも読まないまま何年も経った。
もうせめて、どんな話でどう終わるのかだけでも知りたい。

そんなドイツ語文学作品を、最初から結末までご紹介するシリーズです。これを読んで、分厚い本を読み終わった気分になりましょう!ネタばれ前提です。ご承知おきください。

積まれた数冊のドイツ文学の本

作者紹介:E.T.A.ホフマン(Ernst Theodor Amadeus Hoffmann)

E.T.A.ホフマン(1776~1822)は、ドイツ・ロマン派を代表する作家・音楽家・法律家です。プロイセンで裁判官として働くかたわら、小説や音楽、絵画など幅広い分野で才能を発揮しました。幻想と現実が入り混じる独特の作風で知られ、後世の幻想文学やミステリー文学にも大きな影響を与えています。

『くるみ割り人形とねずみの王様』(Nussknacker und Mausekönig)

登場人物

マリー・シュタールバウム:物語の主人公。想像力が豊かで、心やさしい7歳の少女。

フリッツ・シュタールバウム:マリーの兄。兵隊のおもちゃが好きな、活発で少しいたずら好きな少年。

ドロッセルマイヤーおじさん:シュタールバウム家の友人で、マリーとフリッツの名付け親。機械仕掛けのおもちゃや時計作りを得意とする人物。

くるみ割り人形:クリスマスにシュタールバウム家へやって来た、少し風変わりなくるみ割り人形。

ねずみの王様:七つの頭を持つ、ねずみたちの王。

ピルリパート姫:ドロッセルマイヤーおじさんが語る昔話に登場する王女。

クリスマスイブの贈り物

クリスマスイブ、シュタールバウム家では、マリーと兄のフリッツ、姉のルイーゼが、プレゼントの用意された部屋へ入れる時を心待ちにしていた。やがて父と母に呼ばれて部屋へ入ると、ろうそくの灯るクリスマスツリーの下には、人形や兵隊のおもちゃ、本や衣服など、たくさんの贈り物が並んでいた。

名付け親のドロッセルマイヤーおじさんも、毎年恒例の機械仕掛けの作品を持ってきていた。精巧な人形たちが動く見事な細工に子どもたちは感心したが、マリーの目を引いたのは、そのそばに置かれていた一体のくるみ割り人形だった。

くるみ割り人形は、大きな頭と口をした少し不格好な姿をしていた。しかしマリーはその人形をひと目で気に入り、父親から世話を任されると、大切に抱きかかえた。

父親が人形の口にクルミを入れて使い方を見せると、フリッツも面白がって次々とクルミを割らせた。ところが、とうとう大きくて硬いクルミを口に押し込んだため、人形の歯が欠け、下あごまで傷ついてしまう。マリーはすぐにくるみ割り人形を引き取り、首にリボンを巻いて手当てをすると、人形用のベッドへ寝かせた。

真夜中の戦い

その夜、マリーは傷ついたくるみ割り人形のことが気になり、眠る前にガラス戸棚の前へ向かった。部屋には誰もおらず、ろうそくの明かりだけが静かに揺れている。マリーが人形に別れを告げようとしたその時、時計がゆっくりと真夜中の十二時を打ち始めた。

鐘の音が鳴り終わると、床から七つの頭を持つねずみの王様が現れ、その後ろには無数のねずみが集まっていた。恐怖に駆られたマリーは後ずさりし、ひじでガラス戸棚の戸を割って腕を傷つけてしまう。

そのとき、ガラス戸棚の中では、くるみ割り人形や兵隊たちが命を吹き込まれたように動き出した。くるみ割り人形はおもちゃの軍勢を率い、ねずみ軍団との戦いを始める。しかし、ねずみの数はあまりにも多く、くるみ割り人形たちは次第に追い詰められていった。

このままでは、くるみ割り人形が殺されてしまう――。そう思ったマリーは、とっさに履いていたスリッパをねずみの王様へ投げつけた。そして、そのまま意識を失い、床へ倒れてしまった。

ドロッセルマイヤーが語る「硬いクルミ」の秘密

けがをして寝込んだマリーのもとを訪れたドロッセルマイヤーおじさんは、くるみ割り人形とねずみの王様の因縁を知る手がかりとして、「硬いクルミの物語」を語り始めた。

昔、ある王国にピルリパートという美しい姫がいた。ところが王妃と対立したねずみの女王マウゼリンクスは、復讐のために姫へ呪いをかけ、醜い姿に変えてしまう。呪いを解くには、まだ一度もひげを剃ったことも、長靴を履いたこともない若者が、非常に硬いクラカトゥークの実を歯で割り、その中身を姫に食べさせたうえで、後ろ向きに七歩下がらなければならなかった。

長い捜索の末、その条件を満たしたのは、宮廷の時計師ドロッセルマイヤーの甥だった。若者はクラカトゥークの実を割り、ピルリパート姫を元の美しい姿へ戻すことに成功する。しかし、最後の七歩を下がる途中でねずみの女王を踏み、つまずいてしまった。その瞬間、若者は大きな頭と口を持つ、醜いくるみ割り人形の姿へ変えられてしまう。

もとの姿に戻ったピルリパート姫は、醜くなった若者との結婚を拒んだ。こうして彼は宮廷を追放され、七つの頭を持つねずみの王様を倒し、その姿のままでも愛してくれる女性と出会わなければ、呪いを解くことができない運命となった。マリーはこの話を聞き、目の前のくるみ割り人形こそ、ドロッセルマイヤーおじさんの甥ではないかと考えるようになった。

ねずみの王様との決着

その後、七つの頭を持つねずみの王様は、夜ごとマリーの前に現れ、くるみ割り人形の命が惜しければ、菓子を差し出すようにと脅した。マリーは砂糖菓子やマジパンを言われるままに渡したが、ねずみの王様の要求は次第に大きくなり、ついには大切にしていた砂糖細工の人形まで求められるようになった。

これ以上、ねずみの王様の言いなりになることはできない。困り果てたマリーがくるみ割り人形に事情を打ち明けると、彼はねずみの王様と戦うための剣を用意してほしいと頼んだ。そこでマリーは兄のフリッツに相談し、おもちゃの兵隊が持っていた剣を借りて、くるみ割り人形に渡した。

その夜、くるみ割り人形は剣を手に、ねずみの王様との最後の戦いへ向かった。やがて彼は血のついた剣を持ってマリーのもとへ戻り、ねずみの王様を倒した証として、七つの小さな王冠を差し出した。こうしてマリーを苦しめ続けたねずみの王様は姿を消し、二人の長い戦いはついに終わった。

くるみ割り人形の国へ

ねずみの王様を倒したくるみ割り人形は、マリーを自分の国へ招いた。二人は家の廊下にある大きな衣装だんすへ向かい、父親の毛皮の袖を通り抜ける。すると、その先には砂糖菓子がきらめく草原や、甘い香りに包まれた森が広がっていた。

くるみ割り人形は、マリーをクリスマスの森やレモネードの川、菓子でできた町へ案内した。人形の国の都コンフェクトブルクへ入ると、出迎えた人物は彼らを歓迎した。やがて二人は、美しいマジパンの城へたどり着く。

城から現れた四人の王女たちは、くるみ割り人形を「王子」「兄」と呼んで抱きしめ、無事の帰還を喜んだ。くるみ割り人形は、マリーこそ自分の命を救い、ねずみの王様を倒す力を与えてくれた恩人だと姉たちに紹介する。王女たちはマリーを歓迎し、二人を城の中へ案内した。

豪華な食事の支度が始まると、くるみ割り人形は、ねずみの軍勢との戦いや、マリーに救われたことについて詳しく語った。マリーはその話を聞くうちに次第に眠りへ落ち、気がつくと、再び自分の家のベッドで目を覚ましていた。

王子の正体と結末

翌日、マリーはくるみ割り人形の国での出来事を家族に話し、ねずみの王様の七つの王冠も見せた。しかし、家族は誰も信じようとはせず、父親は二度とその話をしないようにと言い渡した。

それからマリーは、不思議な国で見たものを思い返しては、静かに物思いにふけるようになった。ある日、ドロッセルマイヤーがシュタールバウム家の時計を修理しているそばで、マリーはくるみ割り人形を見つめながら、たとえ醜い姿になっても、ピルリパート姫のように拒んだりはしないと語りかけた。すると突然、大きな音が響き、マリーは気を失ってしまった。

目を覚ますと、母親がそばにおり、ドロッセルマイヤーおじさんの甥がニュルンベルクから到着したと告げられた。おじさんの隣には、美しい身なりをした青年が立っていた。

その後、青年はマリーと二人きりになると、自分こそ呪いによってくるみ割り人形の姿に変えられていたドロッセルマイヤーの甥だと明かした。そして、ねずみの王様を倒し、醜い姿の自分を受け入れるというマリーの言葉によって、ようやく呪いが解けたのだと話し、結婚を申し込んだ。

マリーはその申し出を受け入れ、青年の婚約者となった。一年後、青年は銀の馬が引く黄金の馬車でマリーを迎えに来た。二人は盛大な結婚式を挙げ、マリーはくるみ割り人形の国の王妃となって、幸せに暮らした。

読後メモ

子供から大人まで楽しめる、明るく華やかな「クリスマスの夢物語」のバレエ版と違って、ホフマンの原作は少し不気味でダークな、大人の鑑賞にも耐えうる重層的なゴシック・ファンタジーです。「なぜくるみ割り人形が呪われたのか」という、作中作の悲劇(ピルリパート姫の物語)に多くのページが割かれており、全体的に奇妙で幻想的な雰囲気が漂っています。

まいん
まいん

私は、作中作の部分を子供の頃に漫画で読んで、プチ・トラウマになったんですよ(笑)

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