『グリム童話』は、19世紀初頭にドイツのグリム兄弟が各地に伝わる昔話を集め、まとめた民話集です。現在の子ども向けの童話とは異なり、初版に近い物語には、素朴な表現や、残酷な描写も残されています。
この連載では、『子どもと家庭の童話(Kinder- und Hausmärchen)』1812年初版に掲載された物語を、できるだけ原文の流れを残しながら日本語に訳しています。文末には、底本として参照したWikisource公開版をダウンロードできるリンクを入れています。
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1812年版では、ラプンツェルを塔に閉じ込めるのは Fee (妖精)と書かれていますが、1857年版では Zauberin(女魔法使い)に改められています。ここでは物語の雰囲気に合わせて「女魔法使い」と訳しています。
ラプンツェル
むかしむかし、ひとりの男とひとりの女がいました。ふたりはもう長いこと子どもを望んでいましたが、ひとりも授かりませんでした。けれども、ついに妻は身ごもりました。
この夫婦の家の奥には、小さな窓がありました。そこからは、ある女魔法使いの庭を見ることができました。その庭には、あらゆる種類の花や草がいっぱいに生えていましたが、誰ひとり、その庭に入ることは許されませんでした。
ある日、妻がその窓辺に立って下を見ていると、ひとつの花壇に、とても美しいラプンツェル(※サラダなどに入れられる植物)が生えているのが見えました。妻はそれをたいへん食べたくなりました。しかし、どうしてもそれを手に入れることはできないと分かっていたので、すっかり弱り、みじめな様子になりました。夫はとうとう驚いて、そのわけをたずねました。
「ああ、もし家の裏の庭にあるラプンツェルを食べられないなら、私は死んでしまいます」
妻をたいへん愛していた夫は、たとえ何が起ころうとも、妻のためにそれを手に入れてやろうと思いました。そしてある晩、高い壁を乗り越え、大急ぎでラプンツェルをひとつかみ掘り取り、妻のところへ持って帰りました。
妻はすぐにそれでサラダを作り、激しい食欲のまま、すっかり食べてしまいました。けれども、それは妻にとってあまりに、あまりにおいしかったので、次の日には、前の日の三倍もそれを欲しがるようになりました。
夫は、このままでは休まることはないとよく分かりました。そこで、もう一度庭へ入りました。しかしそこに女魔法使いが立っているのを見て、たいへん驚きました。女魔法使いは、よくも自分の庭へ来て、そこから盗みを働いたものだと、激しく彼を叱りました。
男は、できるかぎり弁解しました。妻が身ごもっていること、そしてそのような時に望むものを拒むのは危険であることを話しました。すると最後に、女魔法使いは言いました。
「それなら許してやろう。そして、おまえが望むだけ、ラプンツェルを持っていくことも許してやろう。ただし、おまえの妻が今身ごもっている子を、私に渡すならば」
男は恐ろしさのあまり、すべてを承知してしまいました。そして妻が産み月になると、女魔法使いはすぐに現れ、その小さな女の子にラプンツェルと名づけて、連れ去ってしまいました。
このラプンツェルは、この世でいちばん美しい子どもになりました。しかし十二歳になると、女魔法使いは彼女を高い高い塔の中に閉じ込めました。その塔には、扉も階段もなく、ただいちばん上に小さな窓があるだけでした。
女魔法使いが中へ入りたい時には、下に立ってこう呼びました。
「ラプンツェル、ラプンツェル!
おまえの髪を私のところへ垂らしておくれ」
ラプンツェルには、紡いだ金のように細く、見事な髪がありました。そして女魔法使いがそう呼ぶと、ラプンツェルは髪をほどき、上で窓の鉤に巻きつけました。すると髪は20エレ(※エレは当時の長さの単位)の長さで下まで垂れ下がり、女魔法使いはそれを伝って上へ登りました。
ある日、ひとりの若い王子が、塔の立っている森を通りかかりました。王子は、美しいラプンツェルが上の窓辺に立っているのを見ました。そして、彼女がとても甘い声で歌うのを聞き、すっかり恋に落ちてしまいました。しかし塔には扉がなく、どんなはしごもそこまで高く届くことはできなかったので、王子は絶望しました。それでも毎日、森へ出かけていきました。
するとある時、女魔法使いがやって来るのを見ました。女魔法使いは言いました。
「ラプンツェル、ラプンツェル!
おまえの髪を垂らしておくれ」
それを見て、王子は、どんなはしごを使えば塔の中へ入れるのか、よく分かりました。王子は、言わなければならない言葉をしっかり覚えました。そして次の日、暗くなると、塔のところへ行き、上に向かって言いました。
「ラプンツェル、ラプンツェル、
おまえの髪を垂らしておくれ!」
するとラプンツェルは髪をほどきました。そして髪が下まで届くと、王子はそれにしっかりつかまり、上へ引き上げられました。ラプンツェルは、はじめは驚きました。けれどもすぐに、この若い王がたいへん気に入りました。そして王子が毎日やって来て、上へ引き上げられるように、ふたりは約束しました。
こうしてふたりは、しばらくの間、楽しく喜びのうちに暮らしました。そして女魔法使いはそのことに気づきませんでした。しかしある日、ラプンツェルは女魔法使いに向かって、こんなことを言いはじめました。
「ねえ、ゴーテルさん、私の小さな服がきつくなって、もう合わなくなってきたのは、どうしてなのでしょう」
「ああ、神をも恐れぬ子」と女魔法使いは言いました。「私はいったい何を聞かされているのだ」
そして女魔法使いは、自分がだまされていたことにすぐ気づき、すっかり腹を立てました。そこで女魔法使いは、ラプンツェルの美しい髪を取り、左手に数回巻きつけました。そして右手で鋏をつかむと、じょき、じょき、と髪は切り落とされました。
それから女魔法使いは、ラプンツェルを荒れ野へ追いやりました。そこでラプンツェルはたいへん苦しい暮らしを送り、しばらくの時が過ぎたのち、双子を産みました。ひとりは男の子、ひとりは女の子でした。
ラプンツェルを追い払ったその同じ日、女魔法使いは夕方になると、切り落とした髪を上の鉤にしっかり結びつけました。そして王子がやって来て、
「ラプンツェル、ラプンツェル、
おまえの髪を垂らしておくれ!」
と言うと、女魔法使いは髪を下ろしました。しかし王子は、愛するラプンツェルの代わりに、そこに女魔法使いを見つけた時、どれほど驚いたことでしょう。
「いいか」と、怒った女魔法使いは言いました。「ラプンツェルは、おまえのような悪者からは、永遠に失われたのだ!」
すると王子はすっかり絶望し、そのまま塔から身を投げました。命は助かりましたが、両目はつぶれてしまいました。王子は悲しみながら森をさまよい歩き、草と根しか食べず、ただ泣くことしかしませんでした。
数年ののち、王子は、ラプンツェルが子どもたちとともに苦しく暮らしていた、あの荒れ野へ迷い込みました。彼女の声は、王子にはとても聞き覚えがあるように思われました。
その同じ瞬間、ラプンツェルもまた王子に気づき、彼の首に抱きつきました。彼女の涙が二粒、王子の目に落ちました。すると王子の目は再び澄み、昔のように見ることができるようになりました。
<完>
底本: Brüder Grimm: „Rapunzel“, in: Kinder- und Haus-Märchen, Band 1, Berlin: Realschulbuchhandlung, 1812, S. 38–43. 本文はWikisource公開版をもとにしています。

初版ではラプンツェルと王子が”大人の関係”だったのはちょっと衝撃的ですね!でも、グリム兄弟が、版を重ねる中で性的な要素を弱めていき、後の版では「恋仲になったことをうっかり女魔法使いに言ってしまう」という話に変わっています。
おすすめの書籍
大人の目線で読む、初版グリム童話の怖さや残酷さにもっと触れてみたい方には、こちらの本もおすすめです。子どもの頃に親しんだ童話とは違う、ぞっとするような展開や、人間の欲望がにじむ物語を楽しめます。
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ドイツ語原文PDF
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