『グリム童話』は、19世紀初頭にドイツのグリム兄弟が各地に伝わる昔話を集め、まとめた民話集です。現在の子ども向けの童話とは異なり、初版に近い物語には、素朴な表現や、残酷な描写も残されています。
この連載では、『子どもと家庭の童話(Kinder- und Hausmärchen)』1812年初版に掲載された物語を、できるだけ原文の流れを残しながら日本語に訳しています。文末には、底本として参照したWikisource公開版をダウンロードできるリンクを入れています。

『いばら姫』は日本では『眠れる森の美女』とも呼ばれていますが、ここでは「いばらの小さなバラ」を意味するドイツ語の原題 Dornröschen(ドーンロェスヒェン) に合わせて、『いばら姫』とします。
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いばら姫(眠れる森の美女)|Dornröschen
ある王様と王妃には、どうしても子どもができず、ふたりは子どもをひとり、たいそう欲しがっていました。あるとき、王妃が水浴びをしていると、一匹のザリガニが水の中から陸へ這い出してきて、言いました。
「お望みはもうすぐかないます。女の子をお産みになるでしょう」
そして、そのとおりになりました。王様は王女の誕生をたいそう喜び、盛大な祝いの宴を開かせ、国にいる妖精たちも招きました。しかし、金の皿が十二枚しかなかったので、ひとりだけ招くことができませんでした。妖精は十三人いたのです。
妖精たちは宴にやって来て、宴の終わりに子どもへ贈り物を授けました。ひとり目は美徳を、ふたり目は美しさを、そしてほかの妖精たちも、この世で素晴らしいと思われるもの、望ましいと思われるものを、次々に授けました。
しかし、ちょうど十一人目が自分の贈り物を告げたとき、十三人目が入ってきました。自分が招かれなかったことにひどく腹を立て、叫びました。
「私を招かなかったのだから、おまえたちに告げよう。おまえたちの娘は十五歳のとき、紡錘(糸を紡ぐための棒)で身を刺し、倒れて死ぬだろう」
両親は恐れおののきました。しかし、十二人目の妖精はまだ祝福を授けていなかったので、こう言いました。
「死にはしません。ただ百年のあいだ、深い眠りにつくのです」
王様は、それでもまだ、愛しい子どもを救いたいと願い、王国じゅうの紡錘をすべて取り除くようにと命令を出しました。
王女は成長し、その美しさは驚くほどでした。
王女がちょうど十五歳になった頃の、ある日のことです。王様と王妃は出かけていて、王女は城にひとりきりでした。それで、気の向くままにあちらこちらを歩きまわり、とうとう古い塔のところへ来ました。
そこには狭い階段がありました。王女は好奇心にかられて階段を上り、小さな扉の前にたどり着きました。扉には黄色い鍵が差し込まれていました。その鍵を回すと、扉がぱっと開き、王女は小さな部屋の中に入りました。そこには年老いた女が座って、亜麻を紡いでいました。
王女はその老女がすっかり気に入り、冗談を交わし、自分も一度紡いでみたいと言って、その手から紡錘を取りました。しかし、紡錘に触れるやいなや、それで身を刺してしまい、すぐさま倒れて深い眠りにつきました。
その瞬間、王様が宮廷の人々をみな連れて帰ってきました。そして、何もかもが眠りはじめました。馬小屋の馬も、屋根の上の鳩も、中庭の犬も、壁のハエも。かまどで揺らめいていた火までもが静まり、眠り込みました。そして焼き肉は、じゅうじゅうと音を立てるのをやめました。
料理人は、髪を引っ張ろうとしていた下働きの少年から手を離しました。女中は、羽をむしっていた鶏を取り落とし、眠りました。
そして城全体を囲むように、いばらの垣根が高く、ますます高く伸びていき、城はすっかり見えなくなりました。
美しいいばら姫のことを聞いた王子たちがやって来て、姫を救い出そうとしました。しかし、垣根を通り抜けることはできませんでした。いばらは、まるで手をつなぎ合うように、互いに固く絡み合っているかのようでした。そして王子たちは、その中に引っかかり、哀れな最期を遂げました。
こうして長い、長い年月が過ぎました。
あるとき、ひとりの王子がその国を旅していました。すると、ある老人が王子に、この話をしました。いばらの垣根の向こうには城があり、その中では、たいそう美しい王女が宮廷の人々とともに眠っていると、人々は信じているのだと。そして老人は、自分の祖父から聞いたことも話しました。昔、多くの王子たちがやって来て、垣根を通り抜けようとしたものの、いばらに引っかかり、そのとげに刺されて死んでしまったのだと。
「そんなことで恐れはしない」
と王子は言いました。
「私は垣根を通り抜け、美しいいばら姫を救い出そう」
王子は出かけていきました。そして、いばらの垣根のところへ来ると、そこにあるのは花ばかりでした。花々は互いに左右へ分かれ、王子はその間を通り抜けました。そして王子の後ろでは、それらは再びいばらになりました。
王子は城に入りました。中庭では馬たちが横たわって眠っていました。まだら模様の猟犬たちも眠っていました。屋根には鳩たちがとまり、小さな頭を翼の中にうずめていました。
城の中へ入ると、壁ではハエが眠り、台所では火も、料理人も、女中も眠っていました。さらに進むと、宮廷の人々がみな横たわって眠っていました。そして、もっと先では、王様と王妃が眠っていました。
あたりは、自分の息の音が聞こえるほど静かでした。やがて王子は古い塔にたどり着きました。そこには、いばら姫が横たわって眠っていました。
王子は姫の美しさにたいそう驚き、身をかがめて口づけしました。すると、その瞬間、姫は目を覚ましました。そして王様も王妃も、宮廷の人々もみな目を覚ましました。馬も犬も、屋根の上の鳩も、壁のハエも目を覚ましました。
火も起き上がって揺らめき、食事を煮上げました。そして焼き肉は再びじゅうじゅうと音を立て、料理人は下働きの少年の頬を平手で打ち、女中は鶏の羽をむしり終えました。
それから王子といばら姫の婚礼が祝われ、ふたりは生涯、幸せに暮らしました。
<完>
底本: Brüder Grimm: „Dornröschen“, in: Kinder- und Haus-Märchen, Band 1, Berlin: Realschulbuchhandlung, 1812, S. 225–229. 本文はWikisource公開版をもとにしています。

今さら言うのもなんですが、相変わらずあっけない終わり方ですね!塔にいた老女が誰かとか、なんでわざわざ紡錘を1個残しておいたのかとか、王子たちがたくさんチャレンジして散っていったのに、なんで最後の王子だけイージーモードなのかとか、つっこみどころがたくさんあって面白いですね。
おすすめの書籍
大人の目線で読む、初版グリム童話の怖さや残酷さにもっと触れてみたい方には、こちらの本もおすすめです。子どもの頃に親しんだ童話とは違う、ぞっとするような展開や、人間の欲望がにじむ物語を楽しめます。
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ドイツ語原文PDF
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