『若きウェルテルの悩み』は、ドイツの文豪ゲーテが1774年に発表した書簡体小説です。18世紀ヨーロッパの若者たちを熱狂させ、「ウェルテル熱」と呼ばれる社会現象まで生んだ、ドイツ文学を代表する恋愛小説。あのナポレオンをして、「私はこの作品を7回読んだ」といわしめました。
この連載では本作の1774年初版を、日本語で自然に読める新釈として一通ずつご紹介します。本記事の現代語訳は、当サイトが独自に作成したものです。無断転載はご遠慮ください。

今回は2通目の手紙です。ウェルテルから手紙を受け取っている気持ちになって読んでみてくださいね。
1771年5月10日
素晴らしい、晴れやかな喜びが僕の魂のすべてを満たしている。それは、僕が心から満喫している、あの甘美な春の朝のようだ。僕はただひとり、僕のような魂のために作られたこの土地で、自分の生を深くかみしめ、喜びに浸っている。
ああ、親愛なる友よ、僕は本当に幸せだ。穏やかに存在している感覚にすっかり没頭していて、そのために僕の芸術が手につかなくなってしまうほどだ。今の僕には、一本の線すら描くことができないだろう。しかし、これほど偉大な画家であったことも、かつてなかったように思われる。
愛する谷が僕のまわりで霞に包まれ、高い空にある太陽が、僕の森の奥深い闇の表面にとどまって、わずかな光線だけがその聖なる奥の院へと忍び込んでくるとき。そして、僕が激しく流れる小川のほとりの深い草むらに横たわり、地面のすぐ近くで、千差万別の小さな草葉たちが、にわかに意味を持って目に留まるとき。
茎と茎のあいだにうごめく小さな世界、あの数えきれない、計り知れない姿をした無数の虫や羽虫たちを、僕の心のすぐ近くに感じるとき。そして、僕たちすべてをご自身の姿に模して造られた全能の神の臨在を感じ、僕たちを永遠の歓喜の中に浮かべ、支え、生かしてくださる、あまねく愛される方の息吹を感じるとき。
親愛なる友よ、やがて僕の目の前が薄暗くなり、僕のまわりの世界も空も、まるで恋人の姿のように、僕の魂の中にすっぽりと安らうとき。そのとき、僕はしばしば切望し、こう思うのだ。ああ、これをもう一度表現できたら。自分の中にこれほど満ちあふれ、温かく生きているものを、紙の上に吹き込むことができたら。そうして、僕の魂が無限の神の鏡であるように、その紙が僕の魂の鏡となってくれたなら、と。
親愛なる友よ――しかし、僕はこれによって破滅を迎えようとしている。この圧倒的な、輝かしい自然の姿の力に、僕は屈服してしまいそうなのだ。
※本連載は、ゲーテ『Die Leiden des jungen Werthers』1774年初版の電子テキストを底本としています。原文はBibliotheca Augustanaで閲覧できます。
📚 ドイツ文学の名作紹介や作品解説、原文翻訳シリーズをまとめています。物語や詩を通してドイツ語圏の文学世界にふれられる【ドイツ文学と翻訳カテゴリー】もあわせてチェックしてみてください。



