【若きウェルテルの悩み】08/80|1771年5月26日の手紙

『若きウェルテルの悩み』1771年5月26日の手紙 若きウェルテルの悩み

『若きウェルテルの悩み』は、ドイツの文豪ゲーテが1774年に発表した書簡体小説です。18世紀ヨーロッパの若者たちを熱狂させ、「ウェルテル熱」と呼ばれる社会現象まで生んだ、ドイツ文学を代表する恋愛小説。あのナポレオンをして、「私はこの作品を7回読んだ」といわしめました。

この連載では本作の1774年初版を、日本語で自然に読める新釈として一通ずつご紹介します。本記事の現代語訳は、当サイトが独自に作成したものです。無断転載はご遠慮ください。

まいん
まいん

5月26日、またウェルテルからあなたに手紙が届きました。

【若きウェルテルの悩み】07/80|1771年5月22日の手紙
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1771年5月26日

君は昔から、僕がどこか心の落ち着く場所に小さな小屋を構え、どれほど質素であろうと、そこに住みつこうとする性分を知っているだろう。ここでもまた、僕を惹きつける小さな場所を見つけた。

町からおよそ一時間のところに、ヴァールハイムと呼ばれる場所がある。丘の斜面にあるその立地はとても興味深く、上の小道から村を出ると、谷全体を一目で見渡すことができる。

年を重ねてなお快活で愛想の良い女主人がいて、ワインやビール、コーヒーを出してくれる。そして何よりすばらしいのは、二本の菩提樹だ。その広げた枝が教会前の小さな広場を覆い、広場の周囲は農家や納屋、中庭に囲まれている。

これほど親しみ深く、ひっそりとした場所には、めったに出会ったことがない。僕は宿から小さなテーブルと椅子を運ばせ、そこでコーヒーを飲み、ホメロスを読む。

初めてそこへ行ったのは、ある美しい午後のことだった。偶然、菩提樹の下へ来ると、広場には誰もいなかった。皆、畑へ出ていたのだ。

地面に一人、四歳くらいの男の子が座っていた。その子は、生後半年ほどのもう一人の子供を自分の足の間に座らせ、両腕で胸に抱き寄せていた。まるで自分の体を椅子代わりにしてやっているようだった。黒い瞳を生き生きと動かしてあたりを見回しながらも、その男の子はじっと座っていた。

その光景が僕を楽しませた。僕は向かいに置かれていた鋤の上に腰を下ろし、兄弟のその姿を大いに楽しみながら描いた。すぐ近くの垣根や、納屋の門、壊れた荷車の車輪も、そこに並んでいるとおりに描き加えた。

一時間ほど経ってみると、自分で何一つ付け加えていないにもかかわらず、整った、とても興味深い絵が出来上がっていた。この経験によって、これからは自然だけに従おうという決意が、いっそう強くなった。自然だけが無限に豊かであり、自然だけが偉大な芸術家を育てるのだ。

規則の利点については、多くのことが言える。それは、市民社会を褒めるために語れることと、だいたい同じである。規則に従って自分を形作る人間は、決して趣味の悪いものや粗悪なものを生み出さないだろう。それは、法律と礼儀作法によって自分を形作る人間が、決して耐えがたい隣人にもならず、際立った悪人にもならないのと同じだ。

しかし一方で、どのような規則も――何と言おうとも――自然に対する真の感情と、その真の表現を破壊してしまうのだ!

「それは言いすぎだ」と君は言うだろう。「規則はただ制限を加え、伸びすぎた蔓を刈り込むだけではないか」と。

親愛なる友よ、一つたとえ話をしよう。

ある若者の心が、一人の娘にすっかり捉えられているとしよう。彼は一日のすべての時間を彼女のそばで過ごし、あらゆる力と財産を費やして、自分が完全に彼女へ身を捧げていることを、一瞬ごとに伝えようとする。

そこへ、俗物がやって来る。公職に就いている男だ。そして若者にこう言う。

「立派な若者よ、恋をするのは人間らしいことだ。だが、人間らしい仕方で恋をしなければならない。時間を分けなさい。一部は仕事に使い、休息の時間を娘に捧げなさい。自分の財産を計算し、生活に必要な分を差し引いて、なお残るものがあるなら、彼女に贈り物をすることを禁じはしない。ただし、あまり頻繁に贈り物をしてはいけない。誕生日や聖名祝日だけにしなさい」

若者がこの言葉に従えば、役に立つ若者が出来上がる。僕自身、どの領主に対しても、彼を役所の評議会に入れるよう勧めるだろう。だが、彼の恋はそれで終わりだ。そして彼が芸術家なら、その芸術も終わりだ。

ああ、友よ!天才の奔流は、なぜこれほどまれにしかあふれ出さないのだろう。なぜ、たぎる大波となって押し寄せ、君たちの魂を揺さぶることが、これほど少ないのだろう。

親愛なる友よ、川の両岸には、冷静な連中が住んでいるからだ。流れがあふれれば、彼らの庭のあずまやも、チューリップの花壇も、野菜畑も台なしになってしまう。だから彼らは、やがて迫ってくる危険を防ぐため、早いうちから堤防を築き、水路を変える方法を心得ているのだ。

※読者は、ここに記された場所を探そうと苦労するには及ばない。原文にあった実在の地名は、やむを得ず変更されている。

※本連載は、ゲーテ『Die Leiden des jungen Werthers』1774年初版の電子テキストを底本としています。原文はBibliotheca Augustanaで閲覧できます。

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まいん
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書簡に込められたウェルテルの感情を「朗読」で味わってみたい方におすすめです。

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