『グリム童話』は、19世紀初頭にドイツのグリム兄弟が各地に伝わる昔話を集め、まとめた民話集です。現在の子ども向けの童話とは異なり、初版に近い物語には、素朴な表現や、残酷な描写も残されています。
この連載では、『子どもと家庭の童話(Kinder- und Hausmärchen)』1812年初版に掲載された物語を、できるだけ原文の流れを残しながら日本語に訳しています。文末には、底本として参照したWikisource公開版をダウンロードできるリンクを入れています。

『狼と七匹の子ヤギ』は日本でもよく知られた物語ですが、初版にはなぜかチョークを食べるという意外な場面があるんですよ!
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狼と七匹の子ヤギ
あるところに、一匹のお母さんヤギがいました。お母さんヤギには七匹の子どもがいて、たいそうかわいがり、狼に襲われないよう注意深く守っていました。
ある日、お母さんヤギは餌を取りに出かけなければならなくなりました。そこで子どもたちをみな呼び集めて、言いました。
「かわいい子どもたち、お母さんは餌を取りに出かけなければなりません。狼に気をつけて、決して家の中へ入れてはいけませんよ。狼はよく変装するけれど、しゃがれた声と黒い足を見れば分かります。よく気をつけるのですよ。狼がいったん家に入ったら、おまえたちをみんな食べてしまいますからね」
そう言って、お母さんヤギは出かけていきました。
ところが、すぐに狼が家の扉の前へやって来て、叫びました。
「かわいい子どもたち、扉を開けておくれ。お母さんですよ。おまえたちに、いいものを持ってきましたよ」
しかし、七匹の子ヤギは言いました。
「おまえは僕たちのお母さんじゃない。お母さんは細くて優しい声をしているけれど、おまえの声はしゃがれている。おまえは狼だ。扉は開けないぞ」
狼は立ち去り、雑貨屋へ行って大きなチョークを買いました。そして、それを食べて、声をきれいにしました。それから再び、七匹の子ヤギの家の扉の前へ行き、細い声で叫びました。
「かわいい子どもたち、中へ入れておくれ。お母さんですよ。おまえたち一人ひとりに、いいものをあげますよ」
しかし、狼は窓に足をかけていました。それを見た七匹の子ヤギは言いました。
「おまえは僕たちのお母さんじゃない。お母さんの足は、おまえのように黒くない。おまえは狼だ。扉は開けないぞ」
狼は立ち去り、パン屋へ行って言いました。
「パン屋よ、俺の足に焼く前のパン生地を塗ってくれ」
パン屋が言われたとおりにすると、今度は粉屋へ行って言いました。
「粉屋よ、俺の足に白い小麦粉を振りかけてくれ」
粉屋は断りました。
「やらないのなら、おまえを食ってしまうぞ」
そこで粉屋は、言われたとおりにしなければなりませんでした。
狼はもう一度、七匹の子ヤギの家の扉の前へ行って、言いました。
「かわいい子どもたち、中へ入れておくれ。お母さんですよ。おまえたち一人ひとりに、贈り物をあげますよ」
七匹の子ヤギは、まず足を見せるように言いました。そして、その足が雪のように真っ白で、狼の声もとても優しく聞こえたので、本当にお母さんだと思い、扉を開けました。
すると、狼が入ってきました。
子ヤギたちは、それが狼だと気づくと、できるだけ早く隠れました。一匹目はテーブルの下、二匹目はベッドの中、三匹目はかまどの中、四匹目は台所、五匹目は戸棚の中、六匹目は大きな鉢の下、そして七匹目は壁時計の中に隠れました。
しかし狼は、壁時計の中に隠れた末っ子を除いて、子ヤギたちをみな見つけ、丸飲みにしてしまいました。末っ子だけが生き残りました。
狼は思う存分食べると、立ち去りました。
しばらくして、お母さんヤギが家へ帰ってきました。なんということでしょう! 狼がやって来て、かわいい子どもたちを食べてしまったのです。
お母さんヤギは、子どもたちがみな死んでしまったと思いました。すると、末っ子が壁時計の中から飛び出し、どのようにしてこの不幸が起こったのかを話しました。
一方、狼は腹いっぱい食べたので、緑の牧草地へ行き、日の光を浴びながら横になって、深い眠りに落ちていました。
お母さんヤギは、子どもたちをまだ助けられないだろうかと考えました。そこで末っ子に言いました。
「糸と針とはさみを持って、お母さんについておいで」
二匹は外へ出て、牧草地でいびきをかいて眠っている狼を見つけました。
「あそこに、気味の悪い狼がいるわ」
お母さんヤギはそう言って、狼をあらゆる方向から眺めました。
「私のかわいい子どもたち六匹を、午後四時のおやつに飲み込んだのね。はさみを貸してちょうだい。ああ!もしも、子どもたちがまだお腹の中で生きていたなら!」
そう言って、お母さんヤギは狼のお腹を切り開きました。
すると、狼が欲張って丸飲みにした六匹の子ヤギが、傷ひとつなく飛び出してきました。
お母さんヤギは、すぐに大きくて重い石を運んでくるよう、子どもたちに言いました。そして、その石を狼のお腹に詰め、再び縫い合わせると、みなで走ってその場を離れ、生け垣の後ろに隠れました。
狼は目を覚ますと、お腹がひどく重く感じられたので、言いました。
「お腹の中が、ごろごろ、どんどん!
お腹の中が、ごろごろ、どんどん!
いったい、これは何だ?
俺は子ヤギを六匹食べただけなのに」
狼は、新鮮な水を飲めばよくなるだろうと思い、泉を探しました。しかし、水を飲もうと身をかがめたとき、石の重さに耐えきれず、水の中へ落ちてしまいました。
それを見た七匹の子ヤギは駆け寄り、喜びながら泉のまわりで踊りました。
<完>
底本: Brüder Grimm: „Der Wolf und die sieben jungen Geislein“, in: Kinder- und Haus-Märchen, Band 1, Berlin: Realschulbuchhandlung, 1812, S. 17–20. 本文はWikisource公開版をもとにしています。

赤ずきんのラストも狼のお腹を割いて石を詰めていましたが、なかなか残酷な場面があっさり書かれていて、子供にとってはトラウマものですね!
シリーズ紹介
当サイトでは、グリム童話1812年初版の翻訳プロジェクトを連載しています。これからもどんどん追加予定なので、ぜひ【グリム童話カテゴリー】をのぞいてみてください。


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ドイツ語原文PDF
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