『ニーベルンゲンの歌』は、中世ドイツ文学を代表する英雄叙事詩です。その成り立ちは、【ニーベルング伝説】を紐解く|日本で混同されやすい派生作品とその原点で詳しくお話しました。

難しそうに見える古典を、物語として気軽に楽しめる形にして連載します。
『ニーベルンゲンの歌』は、中世ドイツ文学を代表する英雄叙事詩です。全39の「冒険」から成り、王女クリームヒルト、英雄ジークフリート、ブリュンヒルト、ハーゲンらの運命が、壮大な物語として語られます。
この連載では、Karl Bartsch校訂『Das Nibelungenlied』の電子テキストを底本に、各冒険を現代語で読みやすく訳しています。本記事の現代語訳は、当サイトによる新釈です。無断転載はご遠慮ください。
第二の冒険の登場人物と舞台
- ジークフリート:ネーデルラントの若き王子。勇敢で美しく、人々から慕われている。
- ジークムント:ネーデルラント王。ジークフリートの父。
- ジーゲリント:ネーデルラント王妃。ジークフリートの母。
- ネーデルラント:現在のドイツにある町クサンテン(Xanten。原文ではSanten)を中心とする、ライン川下流域。
第二の冒険『ジークフリート』
ネーデルラントのライン河畔に、豊かで広く名を知られた城があった。その城はザンテンと呼ばれていた。ここで、高貴な王子が成長していた。父はジークムント、母はジーゲリントである。
その勇敢で立派な若者は、ジークフリートと呼ばれていた。快活な心で多くの国々を巡り、自らの力を試すため、さまざまな土地へ馬を走らせた。やがてブルグントで、彼がどれほど多くの勇士たちと出会うことになるだろう。
若く輝かしい時代から、ジークフリートの驚くべき噂は遠くまで広まっていた。どれほど見事に成長したか、どれほど美しい姿をしていたか、人々は盛んに語り合った。多くの美しい女性たちも、彼に心を寄せていた。
ジークフリートは、王子にふさわしく、細やかな心配りのもとで育てられた。だが、彼に最も優れた徳を授けたのは、その生まれ持った心であった。何をさせても見事であったため、彼は父の国の誉れとなった。
やがて王宮に姿を見せる年齢になると、誰もが喜んで彼を迎えた。とりわけ女性たちは、ジークフリートがいつまでも王宮を訪れてくれることを願った。多くの女性から好意を寄せられていることを、彼自身もよく知っていた。
両親は、息子をひとりで馬に乗せることはなかった。ジークムントとジーゲリントは彼に立派な衣装を与え、名誉とは何かを知る年長者たちに、その身を守らせた。彼らの教えによって、ジークフリートは国と人々の心を得るすべを身につけていった。
成長したジークフリートは、すでに武器を扱うに十分な力を備えていた。必要なものは、何ひとつ欠けていなかった。彼は美しい女性たちにも心を向けるようになり、女性たちもまた、誉れ高きジークフリートの姿を喜んで眺めた。
父ジークムントは家臣たちを招き、親しい人々とともに祝宴を開くことにした。その知らせは、ほかの王たちが治める国々にまで伝えられた。ジークムントは、国の内外から訪れた者たちに、馬や衣装を贈った。
高貴な家柄に生まれながら、まだ騎士となっていない若者がいれば、誰であろうと祝宴に招かれた。こうして各地から集まった若者たちは、若きジークフリートとともに騎士の称号を授けられることになった。
その祝宴の素晴らしさは、遠く離れた土地にまで語り伝えられた。ジークムントとジーゲリントは、自らの富を惜しみなく分け与え、大いなる名誉を得た。そのため、多くの異国の客が二人の国を訪れた。
ジークフリートとともに騎士の装いを授けられる若者は、四百人にのぼった。多くの美しい乙女たちも、その準備に忙しく働いていた。誰もがジークフリートを慕っていたのである。乙女たちは数多くの宝石を黄金に留め、美しい飾りを作った。
その飾りは、若く誇り高い勇士たちの衣装の縁に縫いつけられた。盛大な祝いに、ふさわしい装いであった。城の主ジークムントは、多くの勇士たちのために席を整えさせた。夏至の祝祭の日、ジークフリートは騎士となるのである。
裕福な従士や高貴な騎士たちが、次々と大聖堂へ向かった。年長の騎士たちは、かつて自分たちがしてもらったように、若者たちの世話をした。そこでは数々の催しが用意され、大きな喜びに満ちていた。
神を讃えるミサが執り行われると、人々の間に大きな高揚が広がった。若者たちは定められた儀礼に従い、騎士の称号を授けられた。これほど盛大な栄誉に包まれた騎士叙任は、二度と容易には見られないと思われるほどであった。
騎士となった若者たちは、華やかな鞍をつけた馬へと駆け寄った。ジークムントの宮廷で始まった馬上槍試合は、城の建物や騎士の広間が鳴り響くほど激しいものとなった。勇士たちが巻き起こす轟音が、辺り一帯に響き渡った。
年長の騎士と若い騎士が激しく槍を交え、折れた柄の音が空高く響いた。勇士たちの手から砕けた木片が飛び散り、城の建物の近くまで降り注いだ。誰もが夢中になって腕を競い合っていた。
ついには城の主が試合をやめるよう命じ、馬はその場から引かれた。そこには、砕けた頑丈な盾の突起がいくつも残されていた。激しい衝突によって、輝く盾の飾りから外れた数多くの宝石が、草の上に散らばっていた。
やがて客人たちは、それぞれに定められた席へ着いた。疲れた身体を癒やすため、上等な料理と、最良の葡萄酒が惜しみなく注がれ振る舞われた。国の内外から訪れた者は、誰もが十分な礼を尽くして迎えられた。
一日中さまざまな催しが続いたが、楽人たちは少しも休もうとはしなかった。彼らは豊かな褒美を得るために芸を披露し続けた。こうしてジークムント王の国は、訪れた人々から大いに称賛された。
ジークムントは、若きジークフリートに領地と城を分け与える役目を任せた。ジークフリートは、ともに騎士となった仲間たちにも惜しみなく贈り物をした。若者たちは、この国を訪れたことを心から喜んだ。
祝宴は七日目まで続いた。富める王妃ジーゲリントは、古くからの習わしに従い、愛する息子のために赤い黄金を惜しみなく分け与えた。その心遣いによって、人々がジークフリートを慕うようになったのも当然のことであった。
貧しいまま帰る楽人は、ひとりもいなかった。馬や衣装は、まるで贈る者たちの命が間もなく尽きるかのような勢いで、その手から次々と与えられた。これほど多くの贈り物が振る舞われた館は、ほかにはなかった。
祝宴は、称賛と名誉のうちに幕を閉じた。国の有力者たちは、若きジークフリートこそ自分たちの主君にふさわしいと口々に語った。しかし、立派な若者であるジークフリート自身は、それを望まなかった。
父ジークムントと母ジーゲリントがともに健在であるかぎり、二人の愛する息子は王冠を戴こうとはしなかった。その代わり、彼は諸国に力を振るう者たちを打ち破ることに心を向けた。勇敢で大胆なジークフリートは、そうした強者たちとの戦いを恐れなかった。
※本連載は、Karl Bartsch校訂『Das Nibelungenlied』の電子テキストを底本としています。原文はBibliotheca Augustanaで閲覧できます。
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旧連載で使用していた、第二の冒険『ジークフリート』版画風イメージ





