『ニーベルンゲンの歌』は、中世ドイツ文学を代表する英雄叙事詩です。その成り立ちは、【ニーベルング伝説】を紐解く|日本で混同されやすい派生作品とその原点で詳しくお話しました。

今回は英雄の旅立ちと、これまでの武勲を物語る第三の冒険を、現代語訳でご紹介します。
『ニーベルンゲンの歌』は、中世ドイツ文学を代表する英雄叙事詩です。全39の「冒険」から成り、王女クリームヒルト、英雄ジークフリート、ブリュンヒルト、ハーゲンらの運命が、壮大な物語として語られます。
この連載では、Karl Bartsch校訂『Das Nibelungenlied』の電子テキストを底本に、各冒険を現代語で読みやすく訳しています。本記事の現代語訳は、当サイトによる新釈です。無断転載はご遠慮ください。
第三の冒険の登場人物と舞台
- ジークフリート:ネーデルラントの若き王子。勇敢で美しく、人々から慕われている。
- ジークムント:ネーデルラント王。ジークフリートの父。
- ジーゲリント:ネーデルラント王妃。ジークフリートの母。
- クリームヒルト:ブルグント王家の王女。美しさと気品を備えた女性。
- グンター:ブルグントの王。クリームヒルトの兄。
- ゲルノート:ブルグントの王の1人。兄グンター、弟ギーゼルヘルとともに国を治める。
- ハーゲン:ブルグント王家に仕える重臣。諸国の事情に通じた勇士。
- オルトヴィーン:メッツ出身の勇士。ハーゲンの甥で、グンターに仕える。
- ネーデルラント:現在のドイツにある町クサンテン(Xanten。原文ではSanten)を中心とする、ライン川下流域。
- ヴォルムス:現在のドイツ、ラインラント=プファルツ州にあるライン川沿いの町(Worms)。物語ではグンターたちが治めるブルグント王国の王都。
第三の冒険『ジークフリート、ヴォルムスへ』
若きジークフリートは、それまで深い悲しみに心を苦しめられたことがなかった。
ある日、彼はブルグントの国に、世に並ぶ者のない美しい王女がいるという噂を耳にした。その王女によって、彼はのちに大きな喜びを得ることになる。だが同時に、耐えがたい苦しみを味わうことにもなるのである。
クリームヒルトの美貌は、遠い国々にまで知れ渡っていた。気高い心を備えた王女であるとも評判で、多くの勇士が彼女を求めて、兄であるグンター王の国を訪れていた。
けれども、どれほど多くの男から求婚されても、クリームヒルトの心は動かなかった。誰かを愛し、その人を夫にしたいと思ったことは一度もない。のちに彼女が身を委ねることになる英雄も、このときはまだ見知らぬ人だった。
一方、ジークフリートの心には、クリームヒルトへの思いが芽生えていた。ほかの男たちがどれほど熱心に彼女を求めようとも、彼の情熱に比べれば、吹き過ぎる風ほどのものにすぎなかった。やがて美しいクリームヒルトは、勇敢なジークフリートの妻となる。
親族や家臣たちは、心から愛する妻を望むのなら、自分にふさわしい高貴な乙女を選ぶよう、ジークフリートに勧めた。ジークフリートは迷うことなく答えた。
「ならば、私はクリームヒルトを妻に迎えよう。ブルグントの国に住む、あの美しい王女だ。その美しさは、私もよく耳にする。たとえどれほど強大な皇帝であろうとも、妻を求めるなら、彼女ほどふさわしい女性はいないだろう」
この話は、やがて父ジークムントの耳にも届いた。息子がブルグントの王女を求めていると知り、王は心を痛めた。母ジーゲリントも、愛する息子の身を案じた。彼女はグンターと、その配下にいる勇士たちのことをよく知っていたのである。両親も家臣たちも、危険な求婚を思いとどまらせようとした。
だが、ジークフリートの決意は変わらなかった。
「父上。心から愛する女性でなければ、私は生涯、誰の愛も求めません。人々が何を言おうと、私の心は決まっています」
ジークムントは答えた。
「それでも思いとどまらぬというのなら、私はお前の望みをかなえるため、できるかぎり力を貸そう。だが、グンター王のもとには、誇り高く手ごわい勇士が大勢いる」
父がとりわけ警戒していたのは、トロニエのハーゲンだった。
「たとえほかに誰もいなくとも、あのハーゲンがいる。あれは恐れを知らず、時には傲慢なほど誇り高く振る舞う男だ。クリームヒルトを求めれば、のちに悔やむことになるのではないかと、私は恐れている」
しかし、ジークフリートは少しもひるまなかった。
「それが何の妨げになるでしょう。友好的に頼んでも望むものが得られないのなら、この手で勝ち取るまでです。私には、グンターから国も民も奪い取るだけの力があります」
「そのようなことを口にしてはならぬ」
ジークムントは息子を戒めた。
「その言葉がラインの地に伝われば、ブルグントへ入ることすらできなくなるだろう。グンターとゲルノートのことは、私も以前からよく知っている。そもそも力ずくで乙女を得ることなど、誰にもできぬ。それでも勇士を連れて行くというのなら、われらの友を呼び集めよう」
「軍勢を率いて、戦をするためにラインへ向かうつもりはありません。そのような方法で、クリームヒルトを手に入れたいとも思いません」
ジークフリートはそう答えた。
「彼女を得るために頼るのは、この腕だけで十分です。私を含めて十二人で、グンターの国へ向かいます。その旅支度に、どうかお力をお貸しください」
ジークムントは息子の願いを聞き入れ、一行の衣装に使う上等な毛皮を用意すると約束した。しかし、旅の話を聞いたジーゲリントは、激しく嘆き悲しんだ。グンターの勇士たちによって、たったひとりの息子を失うのではないかと恐れたのである。ジークフリートは母のもとへ行き、優しく慰めた。
「母上、どうか私のことで泣かないでください。どのような勇士を前にしても、私は恐れません」
そして、ブルグントへの旅にふさわしい衣を、自分と供の者たちに用意してほしいと頼んだ。
「お前がどうしても考えを変えないのなら、私も旅支度を手伝いましょう。私のただひとりの子よ。これまで騎士が身につけた中でも最上の衣を、お前と仲間たちのために用意させます」
ジークフリートは母に礼を述べた。
「旅に連れて行くのは、十一人の勇士だけです。その者たちの衣を整えてください。私はぜひ、この目でクリームヒルトがどのような女性なのか確かめたいのです」
それから多くの女性たちが、夜も昼も休まず働いた。ジークフリートと十一人の勇士の衣がすべて整うまで、誰ひとり手を休めなかった。
ジークムントは、息子が自分の国を堂々と旅立てるよう、騎士の装いを美しく飾らせた。輝く鎧、堅固な兜、明るく幅の広い盾も用意された。
出発の日が近づくにつれ、国中の人々が一行の身を案じた。彼らが無事に故郷へ戻ってくるのか、誰にも分からなかったのである。武具と衣が積み込まれ、美しい馬には赤い黄金に輝く馬具が取りつけられた。
ジークフリートとその勇士たちほど、誇り高く堂々とした一行はなかった。いよいよ旅立ちの時が来ると、王と王妃は深い悲しみをこらえながら、息子に別れを告げた。
「どうか私のことで悲しまないでください。私の命を心配する必要はありません」
ジークフリートは、両親をそう慰めた。家臣たちも悲しみ、多くの乙女たちも涙を流した。彼女たちの心は、この旅がやがて多くの悲劇をもたらすことを予感していたのかもしれない。この出立の先には、数多くの友の死が待っていたのである。
旅立ちから七日目の朝、ジークフリートの一行はヴォルムスに到着した。
勇士たちの衣は赤い黄金に輝き、馬具も美しく整えられていた。新しい盾は明るく輝き、幅広く、兜も見事なものだった。彼らの剣は、その切っ先が拍車に届くほど長かった。鋭い槍も携えていた。
なかでもジークフリートの剣は、刃の幅が二スパンもあり、その両刃は恐ろしいほど鋭かった。黄金色の手綱には絹の紐が結ばれていた。これほど華麗な装いでグンター王の国へやって来た勇士たちを、ヴォルムスの人々は見たことがなかった。人々は足を止め、見知らぬ一行を驚きの目で見つめた。
グンターの騎士や従者たちは、客人を迎えるために駆け寄った。彼らは礼儀に従い、一行の手から馬と盾を受け取ろうとした。馬を厩へ連れて行こうとすると、ジークフリートがすぐに制した。
「私たちの馬は、まだここに置いておいてくれ。用が済めば、すぐにこの国を去るつもりだ」
そして、周囲の者たちに尋ねた。
「知っている者がいるなら、隠さず教えてほしい。ブルグントの富める王グンターは、どこにいるのだ」
ひとりの男が答えた。
「王をお探しなら、あちらの館へお向かいください。王は大広間で、多くの勇士たちとともにおられます」
そのころ、グンターのもとにも、見知らぬ騎士たちが宮廷へやって来たとの知らせが届いていた。彼らは白く輝く鎧を身につけ、見事な衣をまとい、新しく幅の広い盾を持っているという。
だが、ブルグントでは誰ひとり、その者たちを知らなかった。これほど立派な一行が、いったいどこから来たのか。王は不思議に思った。そこで口を開いたのは、メッツのオルトヴィーンだった。
「私たちが彼らを知らないのなら、伯父のハーゲンを呼ぶべきでしょう。ハーゲンは諸国の事情を知り、遠い異国の地にも通じています。あの者たちを知っていれば、正体を教えてくれるはずです」
グンターは、ハーゲンを呼びに行かせた。やがてハーゲンは、配下の勇士たちを従えて広間へ入ってきた。
「王よ、私に何をお望みですか」
「私の館に、見知らぬ勇士たちが来ている。この国では誰も彼らを知らぬ。お前がどこかで見たことがあるなら、ありのままを聞かせてほしい」
「承知いたしました」
ハーゲンは窓辺へ進み、外に立つ客人たちへ目を向けた。見事な旅装、輝く鎧、立派な馬。どこから来た者であれ、王侯か、少なくとも王侯の使者に違いない。それほど堂々とした一行だった。ハーゲンは、ひときわ目を引く若者をじっと見つめた。
「私はまだ、ジークフリートをこの目で見たことはありません。ですが、あそこに立っている男こそ、ネーデルラントの英雄ジークフリートではないかと思います」
そしてハーゲンは、その若き英雄について自分が知ることを語りはじめた。
かつてジークフリートが、ただひとり馬を進めていた時のことである。やがて山のふもとへ差しかかると、そこには大勢の屈強な男たちが集まり、洞窟から運び出した莫大な財宝を取り囲んでいた。
財宝の持ち主は、ニーベルングの国の王子シルブングとニーベルングだった。二人はジークフリートを迎えると、自分たちでは決められずにいた財宝の分配を、彼に任せたいと申し出た。目の前に積み上げられていたのは、百台の荷車でも運びきれないほどの宝石だった。さらに、その何倍もの赤い黄金が山のように積まれていた。
ジークフリートは二人の求めを受け入れ、財宝を分けようとした。王子たちはその報酬として、ニーベルングの剣を彼に与えた。ところが、分配は終わらなかった。やがて二人の王子は怒りをあらわにし、ジークフリートへ襲いかかった。
彼らの傍らには、十二人の巨人が控えていた。だが、恐るべき力を誇る巨人たちも、ジークフリートを止めることはできなかった。ジークフリートは怒りにまかせて十二人をことごとく打ち倒し、さらにニーベルングの国の七百人の勇士を服従させた。
その手に握られていたのは、バルムンクと呼ばれる剣だった。バルムンクが振るわれるたび、屈強な勇士たちも恐怖に震えた。ついにはニーベルングの国も城々も、すべてジークフリートに従った。シルブングとニーベルングも、ジークフリートの手にかかって命を落とした。
主君を討たれた小人アルブリヒは、復讐のためジークフリートに戦いを挑んだ。だが、怪力を誇るアルブリヒでさえ、彼にはかなわなかった。二人は野の獅子のように激しく争いながら、山へと駆け上がった。そこでジークフリートはアルブリヒを打ち負かし、身につければ姿を消すことのできる隠れ蓑を奪い取った。
戦いを挑んだ者はことごとく倒れ、ジークフリートはニーベルングの財宝の新たな主となった。彼は山から運び出されていた財宝を、もとの場所へ戻させた。そしてアルブリヒに忠誠を誓わせ、財宝を守る役目を与えた。アルブリヒはジークフリートの家臣として、どのような命令にも従うことを誓ったのである。
ジークフリートの武勲は、それだけではなかった。彼は一匹の竜を討ち倒し、その血を全身に浴びた。血を浴びた肌は角のように硬くなり、どのような武器でも傷つけることができなくなった。
ハーゲンの語るところによれば、これほどの力を備えた勇士は、かつて一人もいなかった。
「ですから、あの方はできるかぎり丁重に迎えるべきです。敵に回してはなりません。ジークフリートは恐るべき力を持ち、その腕で数々の偉業を成し遂げてきた男です」
グンターは窓から外を見下ろした。
「お前の言うとおりだろう。見よ。あれほど勇ましく、戦いを恐れぬ様子で立っている。供の者たちも、並の勇士ではないようだ。われらから迎えに行こう」
ハーゲンも同意した。
「それがよろしいでしょう。彼は高貴な家柄に生まれた王の子です。その姿を見るかぎり、ここまで来た目的も、決して小さなものではありますまい」
グンターは配下の勇士たちを連れ、ジークフリートを迎えるために広間を出た。
王とブルグントの勇士たちは、見知らぬ客人たちに丁重な挨拶をした。ジークフリートも深く礼を返した。グンターは尋ねた。
「高貴なるジークフリートよ。どこから来られ、何を求めてラインの地ヴォルムスへお越しになったのか、聞かせていただきたい」
ジークフリートは、ためらうことなく答えた。
「父の国で、私は何度も噂を耳にしました。ここには、これまでどの王にも仕えたことがないほど勇敢な戦士たちがいるという。その真偽を、私は自分の目で確かめたいと思ったのです」
「グンター王。あなたについても、世に並ぶ王がいないほど勇敢だと聞いています。国々の人々が、そのように語っています。その噂が真実かどうかを確かめるまで、私は心を静めることができませんでした」
さらにジークフリートは、自分もまた勇士であり、いずれ王冠を戴く身であると告げた。国と民を治めるにふさわしい者であることを、自らの力によって世に示したい。そのためならば、名誉も命も賭けるつもりだった。そして、居並ぶブルグントの勇士たちへ、堂々と戦いを挑んだ。
「グンター王。もしあなたが噂どおり勇敢な方なら、喜ぶ者がいようと、悲しむ者がいようと、私はあなたの国を力で奪います。この国も城々も、すべて私に従わせてみせましょう」
王も家臣たちも、耳を疑った。遠い国からわずかな供を連れて来た若者が、グンターの国を奪うと言い放ったのである。ブルグントの勇士たちは、たちまち怒りに燃えた。
「私が何をしたというのだ」
グンターは言った。
「父が長く名誉とともに治めてきた国を、なぜ他人の力によって失わねばならぬ。それでは、われらが騎士として国を守っているとは言えまい」
ジークフリートは、少しも引かなかった。
「私はこの考えを変えるつもりはありません。王の力で国の平和を守れないというのなら、代わりに私が治めます。ただし、私が父から継ぐ国も、あなたが力で勝ち取ったならば、あなたのものとしましょう」
「あなたの国と私の国を、同じ賭けの対象にするのです。われら二人のうち、相手を打ち負かした者が、双方の国と民を手に入れる。それでよいでしょう」
ハーゲンとゲルノートは、すぐに異を唱えた。
「われらは、ほかの国を得るために、勇士たちが命を落とすような戦いを望んではいない」
ゲルノートは言った。
「われらには豊かな国があり、この国の民は正当にわれらへ仕えている。ほかの者が治めるより、今の方がよいはずだ」
ブルグントの勇士たちは、怒りに満ちてジークフリートを取り囲んだ。その中にいたオルトヴィーンが、声を上げた。
「このような話を聞かされて、黙っていることはできません。ジークフリートは何の理由もなく、王たちに戦いを挑みました」
「たとえ王たちに十分な守りがなく、ジークフリートが一国の大軍を率いて来たとしても、私は必ず、その度を越した傲慢を捨てさせてみせます」
ジークフリートは激しく怒った。
「お前ごときが、私に手を上げられると思うな。私は王となる者であり、お前は王に仕える身だ。お前のような者が十二人いようとも、私ひとりに立ち向かうことはできぬ」
オルトヴィーンは剣を抜こうとした。彼はハーゲンの妹の子であり、その血にふさわしい勇猛な男だった。一触即発となった両者の間へ、ゲルノートが割って入った。
「怒りをおさめよ、オルトヴィーン。ジークフリート殿は、まだわれらに何もしていない。今ならば、争わずに事を収めることができる。この方を敵ではなく友とする方が、われらにとっても名誉となるだろう」
それまで黙っていたハーゲンも口を開いた。
「この方が戦いを求めてラインの地へ来たことは、われらすべてにとって嘆かわしいことです。私の主君たちは、そのような敵意を向けられる理由などありません」
ジークフリートは、ハーゲンを見据えた。
「私の言葉が気に入らないというのなら、ここブルグントの地で、この腕がどれほどの力を持つのか見せてやろう」
しかしそこでゲルノートが再び割って入り、家臣たちにそれ以上挑発的な言葉を口にすることを禁じた。ジークフリートも、ふとクリームヒルトのことを思い出した。彼がヴォルムスまで来た本当の目的は、ブルグントの勇士たちと殺し合うことではなかった。ゲルノートは、改めてジークフリートに語りかけた。
「われらが争って、何になるというのです。たとえ多くの勇士が命を落としても、われらが得る名誉はわずかであり、あなたが得るものもありません」
それでもジークフリートは、ハーゲンとオルトヴィーンを挑発した。
「ここには二人の友が大勢いるというのに、なぜ戦おうとしない。すぐにその者たちを率いて、私に向かってくればよい」
しかしゲルノートは、家臣たちに応じることを許さなかった。
「ジークフリート殿。あなたも、ともに来られた方々も、われらの客人として歓迎します。兄弟ともども、喜んでもてなしましょう」
そしてゲルノートは、客人たちにグンター王の葡萄酒を出すよう命じた。グンターも言った。
「われらの持つものはすべて、あなたが礼をもって望むなら、自由にお使いください。われらは財産も命も、あなたと分かち合いましょう」
そこまで言われて、ジークフリートの心もようやく少し和らいだ。一行の荷物は預けられ、従者たちには、ヴォルムスで最上の宿が用意された。こうしてジークフリートは、ブルグントの国に客人として迎えられた。
それから幾日もの間、彼は手厚くもてなされた。その待遇は、言葉では言い表せないほど見事なものだった。ジークフリートは、その力と勇敢さによって、誰からも敬意を払われた。彼を憎む者は、ほとんどいなかった。
王たちや勇士たちは、宮廷でさまざまな競技を催した。石を投げても、槍を投げても、ジークフリートにかなう者はいない。何をさせても、彼は常に誰よりも優れていた。
騎士たちが宮廷の女性たちの前で競技に興じるたび、人々の目はネーデルラントの英雄へ引き寄せられた。だが、ジークフリートの心にあるのは、ただひとりの王女だけだった。まだ会ったこともないクリームヒルトを、彼は心から愛していた。
そしてクリームヒルトもまた、まだ一度も言葉を交わしたことのない英雄について、ひそかに多くの噂を聞いていた。宮廷で騎士や従者たちが競技を始めると、クリームヒルトは窓辺から、その様子を何度も眺めた。ほかの楽しみなど何もいらないと思えるほど、彼女はジークフリートの姿に心を奪われていた。
もしジークフリートが、愛する乙女に見つめられていると知っていたなら、それだけで、この上ない喜びを感じただろう。彼自身の目でクリームヒルトを見ることができたなら、この世にそれ以上の幸福はなかったに違いない。
英雄たちとともに宮廷へ立つジークフリートの姿は、ひときわ美しく、堂々としていた。彼を見た多くの女性たちが、ひそかに思いを寄せた。だが、ジークフリートは幾度も同じことを考えていた。
「どうすれば、あの高貴な乙女をこの目で見ることができるのだろう。私はこれほど長く、心から彼女を愛しているというのに、彼女は今も私にとって見知らぬ人のままだ」
グンターたちが領地を巡るときには、勇士たちも同行しなければならなかった。ジークフリートもまた彼らとともにヴォルムスを離れた。そのたびに、クリームヒルトは寂しさを感じた。ジークフリートもまた、彼女への思いのために、深い苦しみを抱えていた。
こうしてジークフリートは、グンターの国でまる一年を過ごした。その間、彼は愛するクリームヒルトの姿を一度も見ることがなかった。やがて彼女によって、多くの喜びと、そして深い悲しみを味わうことになるとも知らずに。
※本連載は、Karl Bartsch校訂『Das Nibelungenlied』の電子テキストを底本としています。原文はBibliotheca Augustanaで閲覧できます。
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旧連載で使用していた、第三の冒険『ジークフリート、ヴォルムスへ』版画風イメージ






