【若きウェルテルの悩み】06/80|1771年5月17日の手紙

『若きウェルテルの悩み』1771年5月17日の手紙 若きウェルテルの悩み

『若きウェルテルの悩み』は、ドイツの文豪ゲーテが1774年に発表した書簡体小説です。18世紀ヨーロッパの若者たちを熱狂させ、「ウェルテル熱」と呼ばれる社会現象まで生んだ、ドイツ文学を代表する恋愛小説。あのナポレオンをして、「私はこの作品を7回読んだ」といわしめました。

この連載では本作の1774年初版を、日本語で自然に読める新釈として一通ずつご紹介します。本記事の現代語訳は、当サイトが独自に作成したものです。無断転載はご遠慮ください。

まいん
まいん

5月17日、またウェルテルからあなたに手紙が届きました。

【若きウェルテルの悩み】05/80|1771年5月15日の手紙
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【若きウェルテルの悩み】01/80|1771年5月4日の手紙
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1771年5月17日

これまでいろいろな人と知り合ったが、まだ仲間と呼べるような人には出会っていない。僕の何がそんなに人を惹きつけるのか、自分でも分からない。大勢の人が僕を気に入り、親しくなろうとしてくれる。けれど、しばらく同じ道を歩いたあと、すぐに別れなければならなくなると、いつも心が痛む。

こちらの人々はどんな様子かと君が尋ねるなら、こう答えるしかない。どこへ行っても同じだ、と。人間というものは、実に変わり映えがしない。大多数の人は、生きるために時間のほとんどを費やし、わずかに残された自由な時間には、どうしてよいか分からず不安になって、それをつぶすためにあらゆる手段を探し求める。ああ、これが人間の定めなのだ!

それでも、根は実に気のいい人たちだ!僕もときには我を忘れ、人間にまだ残されている喜びを、彼らとともに味わうことがある。料理の並んだ食卓を囲み、心を開いて冗談を交わしたり、頃合いを見て馬車で出かけたり、踊りの催しを開いたりする。そんな時間は、僕の心にもよい影響を与えてくれる。ただし、自分の中にはほかにも多くの力が眠っていて、それらが使われないまま朽ちてゆくこと、そして僕がその力を注意深く隠しておかなければならないことを、思い出さずにいられればの話だが。ああ、それを思うと、胸がひどく締めつけられる――それでも!誤解されることは、僕たちのような人間の宿命なのだ。

ああ、若き日のあの人は、もうこの世にいない。いっそ彼女と出会わなければよかった!そうすれば僕は、自分にこう言い聞かせられただろう。「お前は愚か者だ!この世には存在しないものを探しているのだ」と。

だが、僕には彼女がいた。僕はあの心を、あの偉大な魂を知っていた。彼女のそばにいると、いつもの自分以上の存在になったように思えた。なぜなら僕は、自分がなりうるすべてのものになれたからだ。

善なる神よ、彼女の前で、僕の魂の力が一つでも使われずに残っていただろうか。僕の心が自然を包み込む、あの不思議な感情のすべてを、彼女の前では余すところなく表すことができたではないか。僕たちの交わりは、きわめて繊細な感情と鋭い機知とが、絶えず織りなすものではなかったか。その変化の一つ一つには、たとえ度を越して無作法になったときでさえ、天才の刻印が押されていた。

そして今――ああ、僕より年上だった彼女は、僕よりも先に墓へと旅立ってしまった。僕は決して彼女を忘れない。あの揺るぎない精神も、神々しいまでの忍耐強さも、決して忘れない。

数日前、若いVと出会った。率直な若者で、実に恵まれた顔立ちをしている。大学を出たばかりで、自分を特別に賢いとは思っていないが、それでも他人よりは物を知っていると信じている。実際、いろいろな様子からも、よく勉強してきたことが分かる。要するに、なかなかの知識を身につけた若者なのだ。

僕がよく絵を描き、ギリシャ語もできると聞くと(この土地では、その二つはどちらも珍しいことなのだ)、彼は僕に近づき、バトゥーからウッドまで、ド・ピールからヴィンケルマンまで、ありったけの知識を並べ立てた。そして、ズルツァーの『理論』第一部をすべて読み通し、古代研究についてのハイネの手稿まで持っているのだと請け合った。僕は適当に聞き流しておいた。

もう一人、実に立派な人物とも知り合った。領主に仕える役人で、率直な、裏表のない人だ。彼には九人の子供がいるが、子供たちに囲まれた彼の姿を見るのは、心から喜ばしいという話だ。とりわけ長女については、ずいぶん評判になっている。彼から家に招かれたので、近いうちに訪ねるつもりだ。

彼はここから一時間半ほど離れた領主の狩猟館に住んでいる。妻を亡くしたあと、この町や役所の建物にいることがあまりにつらかったため、そこへ移り住む許しを得たのだ。

そのほかにも、ひどく風変わりな連中に何人か出くわした。何もかもが耐えがたいが、なかでもいちばん我慢ならないのは、彼らが示す友情だ。

さようなら!この手紙なら、きっと君も気に入るだろう。最初から最後まで、事実だけを書いた手紙なのだから。

※本連載は、ゲーテ『Die Leiden des jungen Werthers』1774年初版の電子テキストを底本としています。原文はBibliotheca Augustanaで閲覧できます。

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まいん
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書簡に込められたウェルテルの感情を「朗読」で味わってみたい方におすすめです。

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