【新釈】ニーベルンゲンの歌|第五の冒険『ふたり、初めて会う』

ニーベルンゲンの歌

『ニーベルンゲンの歌』は、中世ドイツ文学を代表する英雄叙事詩です。その成り立ちは、【ニーベルング伝説】を紐解く|日本で混同されやすい派生作品とその原点で詳しくお話しました。

まいん
まいん

戦が終わり、ブルグントで豪華な祝宴が設けられます。そしてついに、ジークフリートとクリームヒルトが初めて顔を合わせる時がやってきます。

『ニーベルンゲンの歌』は、中世ドイツ文学を代表する英雄叙事詩です。全39の「冒険」から成り、王女クリームヒルト、英雄ジークフリート、ブリュンヒルト、ハーゲンらの運命が、壮大な物語として語られます。

この連載では、Karl Bartsch校訂『Das Nibelungenlied』の電子テキストを底本に、各冒険を現代語で読みやすく訳しています。本記事の現代語訳は、当サイトによる新釈です。無断転載はご遠慮ください。

【新釈】ニーベルンゲンの歌|第四の冒険『ジークフリート、出陣』
『ニーベルンゲンの歌』は、中世ドイツ文学を代表する英雄叙事詩です。その成り立ちは、【ニーベルング伝説】を紐解く|日本で混同されやすい派生作品とその原点で詳しくお話しました。まいん今回は、ついに英雄ジークフリートが戦場へ向かいます。その圧倒的...

第五の冒険の登場人物と舞台

  • ジークフリート:ネーデルラントからブルグントへ来た若き英雄。
  • クリームヒルト:ブルグント王家の王女。グンター、ゲルノート、ギーゼルヘルの妹。
  • グンター:ブルグントの王。ゲルノート、ギーゼルヘルとともに国を治める。
  • ゲルノート:ブルグントの王。グンターの弟で、ギーゼルヘルの兄。
  • ギーゼルヘル:ブルグントの若き王。グンターとゲルノートの弟。
  • ウーテ:ブルグント王家の王妃。三人の王とクリームヒルトの母。
  • オルトヴィーン:メッツ出身の勇士。ハーゲンの甥で、グンターに仕える。
  • ハーゲン:ブルグント王家に仕える重臣。戦に通じた勇士。
  • リウデガスト:デンマーク王。ブルグントとの戦に敗れ、捕虜となっている。
  • リウデガー:ザクセンの王。リウデガストの弟。兄とともに捕虜となっている。
  • ブルグント王国:ライン川沿いに広がる国。グンター、ゲルノート、ギーゼルヘルの三兄弟が治めている。

第五の冒険『ふたり、初めて会う』

祝宴に加わろうとする勇士たちが、毎日のようにライン川のほとりへ到着した。グンター王への敬意から、遠い国々より訪れた者たちである。多くの客人には馬や立派な衣装が贈られた。

身分の高い者たちのためには、すでに席が用意されていた。集まった諸侯は三十二人にのぼり、祝宴を前に、宮廷の女性たちも競うように美しく着飾った。

若いギーゼルヘルは忙しく立ち働いていた。兄のゲルノートや家臣たちとともに、国の内外から訪れた客人を礼を尽くして迎えた。

客人たちは、金色に輝く鞍や美しい盾、豪華な衣装を携えてラインの地へやって来た。その華やかな様子を目にして、戦で傷を負った者たちの心にも、再び明るさが戻ってきた。

床に伏していた者たちも、死の恐怖をしばし忘れた。病や傷を嘆く声は聞こえなくなり、誰もが間近に迫った祝宴を楽しみにしていた。

これから始まる宴では、どれほど豊かなもてなしを受け、どれほど大きな喜びを味わえるだろう。グンターの治める国は、祝宴への期待に包まれていた。


聖霊降臨祭の朝、五千人を超える勇士たちが、華やかな衣装をまとって集まった。各所でさまざまな競技や余興が始まり、人々は腕前を競い合った。

グンターは、ネーデルラントの英雄が妹クリームヒルトを心から慕っていることを知っていた。ジークフリートはまだ彼女の姿を一度も見たことがなかったが、その美しさが、あらゆる乙女にまさると聞いていたのである。

そこで、メッツの勇士オルトヴィーンがグンターに進言した。

「この祝宴を、名誉あるすばらしいものになさりたいのであれば、ブルグントの国でこれほど大切にされている美しい姫君たちを、客人の前へお出しください。男たちにとって、美しい乙女や気高い女性の姿にまさる喜びがあるでしょうか。どうか妹君を、客人たちの前へお連れください」

その提案を聞き、多くの勇士が喜んだ。

「そのとおりにしよう」

グンターも快く同意した。そして母ウーテと妹クリームヒルトに、侍女たちを伴って宮廷へ出るよう使いを送った。


衣装箱が開かれ、中から上等な衣が次々と取り出された。美しい縁飾りや腕輪も豊富に用意され、若い女性たちは念入りに身支度を整えた。

この日、多くの若い勇士が、女性たちの目に好ましく映りたいと願っていた。その喜びと引き換えにするくらいなら、豊かな王国を差し出されても受け取らなかっただろう。まだ会ったことのない姫君たちを目にする瞬間を、誰もが待ち望んでいた。

グンターは、クリームヒルトと王家の女性たちを守るため、剣を帯びた百人の勇士を付き添わせた。いずれもブルグント王家に仕える者たちである。

王妃ウーテも、豪華な衣をまとった百人を超える女性たちを伴って現れた。その後には、クリームヒルトと大勢の美しい侍女たちが続いた。

女性たちが奥の部屋から姿を現すと、待ち構えていた勇士たちは、クリームヒルトを見ようとして一斉に押し寄せた。

やがて、美しい王女が姿を見せた。

それは、暗い雲の間から朝焼けの光が差し出るようであった。長いあいだ恋い焦がれていたジークフリートの心から、たちまち苦しみが消え去った。今、彼は美しいクリームヒルトが目の前に立つ姿を、初めて見たのである。

彼女の衣からは、いくつもの宝石が輝いていた。薔薇色の頬は美しく照り映え、どれほど理想の女性を思い描いてきた者であっても、これほど美しい人を見たことはないと認めずにはいられなかった。

澄んだ満月が星々の間に浮かび、雲の上から明るく輝くように、クリームヒルトは並み居る女性たちの中でひときわ美しく見えた。その姿に、勇士たちの心は浮き立った。

王家の侍従たちが彼女の前を進んでいたが、誇り高い勇士たちは、美しい王女を間近で見ようと押し寄せた。ジークフリートの胸には、喜びと苦しみが同時に湧き上がった。

――どうして私は、この人を愛することができるなどと思ったのだろう。そんな望みは、愚かな夢にすぎない。だが、この人を諦めなければならないのなら、死んだ方がまだましだ。

そう考えるうちに、彼の顔はある時は青ざめ、またある時は赤く染まった。

その場に立つジークムントの息子もまた、まるで優れた絵師が羊皮紙に描いたかのように美しく見えた。これほど見事な英雄を目にしたことはないと、人々は口々に語った。

クリームヒルトに付き添う者たちは、進む道を空けるよう勇士たちに命じた。男たちは左右へ退き、気高い女性たちの行列を見守った。

その時、ゲルノートが兄グンターに言った。

「これほど親身になって力を貸してくれたジークフリートには、ここにいる勇士たちの前で、ふさわしい礼をお返しください。恥じることなく進言します。ジークフリートを妹のもとへ招き、クリームヒルトから挨拶をさせるのです。これまで勇士に挨拶したことのない妹が、彼を迎えるなら、あのすばらしい英雄の心を、私たちのもとへつなぎとめることができるでしょう」

グンターの親族たちはジークフリートのもとへ行き、告げた。

「王のお許しが出ました。宮廷へお進みください。王の妹君が、あなたにご挨拶なさいます。これは、あなたに与えられる名誉です」

ジークフリートの心は喜びに満たされた。美しいウーテの娘と、ついに言葉を交わせるのである。

クリームヒルトは、気品あるジークフリートが目の前に立つのを見ると、頬を赤く染めた。

「ようこそ、ジークフリート様。気高く、すぐれた騎士よ」

その挨拶を聞き、ジークフリートの心は大きく高鳴った。

彼が丁重に頭を下げると、クリームヒルトはその手を取った。二人は並んで歩きながら、人目を忍ぶように、愛情のこもったまなざしを交わした。

その時、二人の白い手が、心からの思いを込めてそっと握り合わされたのかどうかは分からない。しかし、それがなかったとは、とうてい思えない。クリームヒルトがジークフリートに好意を抱いていることは明らかだった。

夏の日にも、花咲く五月にも、ジークフリートがこれほど大きな喜びを味わったことはなかった。愛することを願っていた女性が、今、自分と手を取り合って歩いているのである。

それを見た多くの勇士は、心の中で思った。

――あのように私も彼女と並んで歩くことができたなら。いや、彼女のそばに横たわることができたなら、どれほど幸せだろう。

だが、これほど王女のために尽くした勇士は、ほかにいなかった。

どの国から来た客人も、クリームヒルトとジークフリートの二人から目を離すことができなかった。

やがてクリームヒルトは、ジークフリートに口づけすることを許された。彼は生まれてから一度も、これほど大きな喜びを味わったことがなかった。

その様子を見ていたデンマーク王は言った。

「随分と歓迎されているようだが、その陰でどれほどの者たちがジークフリートの手にかかり、傷つき倒れたことか。私自身、それを身をもって知っている。神よ、どうか二度と彼を我が国へ近づけないでくれ」

クリームヒルトが通る道を空けるよう命令が下され、大勢の勇士が礼儀正しく彼女に付き従って教会へ向かった。ジークフリートは、そこでいったん彼女と別れた。

クリームヒルトは、多くの女性を伴って大聖堂へ入った。華やかに着飾った彼女の姿に、多くの勇士が心を奪われた。

ジークフリートは、ミサの歌が終わるまで、待ちきれない思いで過ごした。自分が心から慕う女性が好意を示してくれたことを、彼は運命に感謝した。

ミサを終えてクリームヒルトが大聖堂から出てくると、ジークフリートは再び彼女のもとへ招かれた。そこでクリームヒルトは、数多くの勇士を相手に、立派に戦ってくれたことへの感謝を初めて言葉にした。

「ジークフリート様、どうか神があなたに報いてくださいますように。勇士たちがあなたを心から慕い、厚い信頼を寄せているのは、あなたがそれにふさわしい方だからだと聞いております」

ジークフリートは、愛情を込めてクリームヒルトを見つめた。

「私はこれからも、あの方々にお仕えしましょう。命あるかぎり、あの方々の望みを果たすまで、安らかに休むつもりはありません。それもすべて、クリームヒルト様、あなたのお心を得るためです」

その後の十二日間、クリームヒルトが親族たちの前へ姿を見せるたびに、その傍らにはジークフリートがいた。彼が王女に付き添ったのは、深い愛ゆえであった。


グンターの広間の内外では、毎日のように歓声と剣の音が響いた。オルトヴィーンとハーゲンも、驚くほど見事な技を披露した。

どのような競技が行われようとも、二人をはじめとするブルグントの勇士たちは進んで加わり、その力を存分に示した。客人たちは彼らの名と武勇を知り、それはグンターの国の誉れとなった。

戦で負傷し、長く床に伏していた者たちも外へ出てきた。王の家臣たちとともに、盾を使った試合や槍投げを楽しもうとしたのである。大勢の者が彼らを助け、華やかな競技が繰り広げられた。

祝宴のあいだ、グンターは客人たちに最上の料理を振る舞わせた。王の名誉を損なうような不手際が起こらぬよう、あらゆることに心を配り、自らも親しげに客人たちの間を歩いた。

宴の終わりが近づくと、グンターは祝宴に招かれた客人たちに言った。

「勇士たちよ、ここを去る前に、どうか私からの贈り物を受け取ってほしい。皆には大いに感謝している。私の財宝を遠慮なく受け取り、分かち合ってもらいたい」

その一方で、捕虜となっていたデンマークの者たちは、グンターに和平を願い出た。

「私たちが故国へ帰る前に、どうか末永い和平をお約束ください。私たちはそれを必要としております。この戦で、私たちはあなた方の勇士たちに、大勢の大切な仲間を討たれました」

この頃には、リウデガストの傷はすでに癒えていた。ザクセンの王リウデガーも戦傷から回復していたが、彼らは何人もの死者をブルグントの地に残すことになった。

グンターはジークフリートのもとへ行き、相談した。

「どうすべきか、そなたの考えを聞かせてくれ。捕虜となっている二人の王は、明朝にも国へ帰りたいと望み、私と家臣たちに、末永い和平を求めている。彼らは自由の身にしてもらうため、馬五百頭に積めるだけの黄金を差し出すと言っている。ジークフリートよ、どうするのがよいと思う」

「その黄金を受け取るべきではありません」

ジークフリートは答えた。

「二人の王を、何の代償も求めず故国へ帰すのです。ただし、二度と軍勢を率いてこの国へ攻め込まないことを、二人自身の手を差し出して誓わせてください」

「そなたの勧めに従おう」

グンターはそう答えた。

二人の王には、先ほど申し出た黄金は受け取らないと伝えられた。故国では、長い戦に疲れた勇士たちの帰りを、家族や仲間が待ちわびていた。

その後、財宝を山のように載せた盾が、いくつも運び込まれた。グンターはゲルノートの勧めに従い、それを量ることもなく惜しみなく人々へ分け与えた。一人につき五百マルク、中にはそれ以上を受け取る者もいた。

出発する者たちは別れの挨拶をするため、クリームヒルトと王妃ウーテのもとを訪れた。これほど丁重に送り出された勇士たちは、かつていなかった。

客人たちが旅立つと、宿舎は空になった。

その後もグンター王は、親族や多くの気高い勇士たちとともに、毎日のようにクリームヒルトのもとを訪れた。


やがて、ジークフリートも別れを告げようとした。彼は、自分が心から望んでいるものを手に入れられるとは思えず、故国へ帰ろうと考えたのである。

その話を聞いた若いギーゼルヘルは、彼を引き止めた。

「どこへ行こうというのです、気高いジークフリートよ。どうか私の願いを聞き、ここに残ってください。グンター王と、その勇士たちとともにいてください。この国には美しい女性たちが大勢います。ここにいれば、これからも目当ての者と顔を合わせる機会があるでしょう。」

するとジークフリートは言った。

「それならば、馬はそのまま厩につないでおいてくれ。ここを発つつもりだったが、取りやめよう。盾も片づけてよい。故国へ帰ろうと思っていたが、ギーゼルヘル殿の誠意ある言葉に、心を変えた」

こうしてジークフリートは、友への親愛からブルグントの国にとどまった。

ほかのどの国にいても、ここほど心安らかに過ごすことはできなかっただろう。何より、ここにいれば、美しいクリームヒルトの姿を毎日見ることができた。

ジークフリートは、彼女の比類ない美しさゆえに、この国に残った。人々はさまざまな催しを楽しみながら日々を過ごした。

ただ、クリームヒルトへの愛だけは、幾度も彼の心を苦しめた。

そして後に、その愛のために、勇敢なジークフリートは深い悲しみの中で命を落とすことになる。

※本連載は、Karl Bartsch校訂『Das Nibelungenlied』の電子テキストを底本としています。原文はBibliotheca Augustanaで閲覧できます。

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