【グリム童話翻訳】鉄のハインリヒって誰?|カエルの王様1812年初版・原文PDF付き

金のまりを持つカエルと、王女 グリム童話
カエルの王様

『グリム童話』は、19世紀初頭にドイツのグリム兄弟が各地に伝わる昔話を集め、まとめた民話集です。現在の子ども向けの童話とは異なり、初版に近い物語には、素朴な表現や、残酷な描写も残されています。

この連載では、『子どもと家庭の童話(Kinder- und Hausmärchen)』1812年初版に掲載された物語を、できるだけ原文の流れを残しながら日本語に訳しています。文末には、底本として参照したWikisource公開版をダウンロードできるリンクを入れています。

まいん
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1812年初版でのタイトルは『カエルの王様、または鉄のハインリヒ』と言うんですよ。ハインリヒって誰なんでしょうね?ぜひ読んで確認してください!

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カエルの王様、または鉄のハインリヒ

昔、ひとりの王女がいました。王女は森へ出かけると、冷たい泉のほとりに腰を下ろしました。王女は金のまりを持っていました。それは王女がいちばん気に入っている遊び道具で、空高く投げ上げては、落ちてくるところを受け止めて楽しんでいました。

あるとき、まりがとても高く飛び上がりました。王女は手を伸ばし、指を曲げて受け止めようとしていましたが、まりは手のわきをすり抜けて地面に落ち、ころころと転がって、そのまま泉の中へ入ってしまいました。

王女は驚いて、まりが沈んだところを見つめました。しかし、泉はとても深く、底はまったく見えませんでした。そこで王女は、ひどく泣きながら嘆きはじめました。

「ああ!金のまりが戻ってくるなら、そのために何でも差し出すのに。私の服も、宝石も、真珠も、この世にあるものなら何でも」

王女がそう嘆いていると、一匹のカエルが水の中から頭を出して言いました。

「王女様、どうしてそんなに悲しそうに泣いているのですか?」

「ああ、気味の悪いカエルね。あなたに何ができるというの!私の金のまりが泉の中へ落ちてしまったのよ」

すると、カエルは言いました。

「あなたの真珠も、宝石も、服もいりません。けれど、私をあなたのお友達にして、あなたの隣に座らせ、あなたの金のお皿から食べさせ、あなたのベッドで眠らせて、大切にしてかわいがってくださるなら、金のまりを取ってきてあげましょう」

王女は思いました。

「この愚かなカエルは、何をぺちゃくちゃしゃべっているのでしょう。どうせ水の中から出られないくせに。でも、金のまりを取ってきてくれるかもしれないのだから、とりあえず『はい』と言っておきましょう」

そして、王女は言いました。

「ええ、いいわ。金のまりを取ってきてくれたら、あなたの望みを何でもかなえてあげる」

カエルは頭を水の中へ引っ込め、深く潜っていきました。しばらくすると、まりを口にくわえて再び水面に現れ、それを岸へ投げました。

王女は金のまりを見つけると、急いで駆け寄って拾い上げました。そして、再び自分の手に持てたことがあまりにうれしくて、ほかのことは何も考えず、そのまま家へ走って帰ってしまいました。

カエルは王女の後ろから叫びました。

「待ってください、王女様。約束どおり、私も連れていってください」

しかし、王女は耳を貸しませんでした。


翌日、王女が食卓についていると、何かが大理石の階段を上ってくる音が聞こえました。

ぴちゃ、ぱちゃ!ぴちゃ、ぱちゃ!

やがて扉をたたく音がして、声が聞こえました。

「末の王女よ、扉を開けて!」

王女が走っていって扉を開けると、そこにいたのは、もうすっかり忘れていたカエルでした。王女はひどく驚き、急いで扉を閉めると、食卓へ戻りました。しかし王様は、王女の胸がどきどきしている様子に気づき、尋ねました。

「どうして怖がっているのだ?」

「外に気味の悪いカエルがいるのです」

と王女は答えました。

「あのカエルが、私の金のまりを水の中から取ってきてくれました。その代わりに、私のお友達にしてあげると約束したのです。でも、まさか水の中から出てこられるとは思いませんでした。今、扉の前にいて、中へ入れてほしいと言っているのです」

すると、再び扉をたたく音がして、カエルが叫びました。

「末の王女よ、
扉を開けて。
昨日、冷たい泉のほとりで、
私に何と言ったのか、
もう忘れてしまったのか?
末の王女よ、
扉を開けて」

王様は言いました。

「約束したことは守らなければならない。行って、カエルのために扉を開けてやりなさい」

王女が言われたとおりにすると、カエルはぴょんぴょんと中へ入り、王女のすぐ後ろをついて、椅子のところまでやって来ました。王女が再び腰を下ろすと、カエルは言いました。

「私を持ち上げて、あなたの隣の椅子に座らせてください」

王女は嫌がりましたが、王様がそうするよう命じました。

カエルは椅子の上に乗ると、言いました。

「さあ、あなたの金のお皿をこちらへ寄せてください。私も一緒に食べます」

王女は、それにも従わなければなりませんでした。

カエルはお腹いっぱい食べると、言いました。

「もう疲れたので、眠りたいです。私をあなたの部屋へ連れていき、ベッドを整えてください。一緒に横になりましょう」

それを聞いた王女は、ぞっとしました。冷たいカエルが怖くて、触れることさえできなかったのに、今度は自分のベッドで一緒に眠るというのです。王女は泣きだし、どうしても嫌だと言いました。

すると王様は腹を立て、逆らえば許さないと言って、約束したことを守るよう命じました。

もうどうすることもできません。王女は父親に言われたとおりにしなければなりませんでしたが、心の中では腹を立てていました。

王女は二本の指でカエルをつまみ上げ、自分の部屋へ連れていきました。そしてベッドに入ると、カエルを隣に寝かせる代わりに、壁へ向かって、べしゃっ!と投げつけました。

「これでもう、私を放っておくでしょう。この気味の悪いカエル!」


しかし、カエルは死んで落ちてくることはありませんでした。壁から下のベッドへ落ちてきたとき、カエルは美しい若い王子になっていたのです。

王子は王女の愛しい連れ合いとなり、王女も約束したとおり、王子を大切にしました。そして、ふたりは満ち足りた気持ちで一緒に眠りにつきました。

翌朝になると、八頭の馬に引かれ、羽飾りで美しく飾られた、金色に輝く立派な馬車がやって来ました。馬車と一緒にやって来たのは、王子の忠実な家来、ハインリヒでした。

ハインリヒは、王子が姿を変えられてしまったことをたいそう悲しみ、悲しみのあまり心臓が破裂しないよう、心臓のまわりに三本の鉄の輪をはめていたのです。

王子は王女とともに馬車へ乗り込み、忠実な家来は後ろに立ちました。こうして、王子たちは王子の国へ向かいました。

しばらく進んだところで、王子は背後から大きな音がするのを聞きました。王子は振り返って叫びました。

「ハインリヒ、馬車が壊れるぞ!」

すると、ハインリヒは答えました。

「いいえ、殿下、馬車ではございません。
私の心を締めていた輪でございます。
殿下が泉の中におられたとき、
殿下がカエルのお姿だったとき、
大きな悲しみに沈んでいた
私の心を締めていた輪でございます」

その後、王子はもう一度、そしてさらにもう一度、大きな音を聞き、そのたびに馬車が壊れたのだと思いました。しかし、それは忠実なハインリヒの心を締めていた鉄の輪が外れる音でした。王子が呪いから解放され、幸せになったので、三本の輪が次々と弾け飛んだのです。

<完>

底本: Brüder Grimm: „Der Froschkönig oder der eiserne Heinrich“, in: Kinder- und Haus-Märchen, Band 1, Berlin: Realschulbuchhandlung, 1812, S. 1–5. 本文はWikisource公開版をもとにしています。

まいん
まいん

気味悪いカエルを壁に投げつけたら美しい王子になって、その途端にコロッと態度をかえる王女。カエルの姿ではあれほど嫌っていたのに、イケメンの王子なら即ハッピーエンドという、かなり身も蓋もない展開ですね。

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