『グリム童話』は、19世紀初頭にドイツのグリム兄弟が各地に伝わる昔話を集め、まとめた民話集です。現在の子ども向けの童話とは異なり、初版に近い物語には、素朴な表現や、残酷な描写も残されています。
この連載では、『子どもと家庭の童話(Kinder- und Hausmärchen)』1812年初版に掲載された物語を、できるだけ原文の流れを残しながら日本語に訳しています。文末には、底本として参照したWikisource公開版をダウンロードできるリンクを入れています。
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赤ずきん
本編
昔々、小さなかわいい女の子がいました。その子をひと目見た者は、誰もがその子を好きになりましたが、誰よりもかわいがっていたのは、おばあさんでした。おばあさんは、かわいいその子に何をあげればよいのか分からないほどでした。
あるとき、おばあさんは、赤いビロードの小さな帽子を女の子に贈りました。それがとてもよく似合い、女の子もほかのものをかぶりたがらなかったので、その子はただ「赤ずきん」と呼ばれるようになりました。
ある日、母親が赤ずきんに言いました。
「さあ、赤ずきん。ここにケーキを一切れと、ワインを一本用意したから、おばあさんのところへ持っていっておくれ。おばあさんは病気で弱っているから、これで元気をつけられるでしょう。お行儀よくして、私からよろしくと伝えるのよ。それから、きちんと歩いて、道からそれてはいけません。そうしないと転んで、瓶を割ってしまいます。そうなったら、病気のおばあさんには何もなくなってしまうでしょう」
赤ずきんは、母親の言いつけをきちんと守ると約束しました。
おばあさんは、村から半時間ほど離れた森の中に住んでいました。赤ずきんが森へ入ると、狼に出会いました。しかし赤ずきんは、それがどんなに悪い獣なのか知らなかったので、狼を怖がりませんでした。
「こんにちは、赤ずきん」
「ありがとう、狼さん」
「こんなに朝早く、どこへ行くんだい、赤ずきん」
「おばあさんのところへ」
「前掛けの下に何を持っているんだい?」
「おばあさんは病気で弱っているの。ケーキとワインを持っていくのよ。昨日、私たちが焼いたものだから、これで元気をつけてもらうの」
「赤ずきん、おばあさんはどこに住んでいるんだい?」
「森の中を、ここからもう十五分ほど行ったところよ。三本の大きな樫の木の下に家があって、その下にはハシバミの生け垣があるの。狼さんも知っているでしょう」
と、赤ずきんは言いました。狼は心の中で考えました。
――これは、うまそうな、よく肥えた獲物だ。どうすれば、手に入れられるだろう。
「ねえ、赤ずきん」
と狼は言いました。
「森に咲いている、きれいな花を見なかったのかい? どうして少しも周りを見ないんだ? 小鳥たちが、かわいらしく歌っているのも、まるで聞いていないようだね。村で学校へ行くときのように、ひとりで歩いているけれど、森の外はこんなに楽しいのに」
赤ずきんは目を上げました。すると、木々の間から日の光が差し込み、辺り一面に美しい花が咲いているのが見えました。そこで赤ずきんは考えました。
――まあ、おばあさんに花束を持っていったら、それもきっと喜んでくれるでしょう。まだ早いから、時間どおりに着けるわ。
赤ずきんは森の中へ駆け込み、花を探しました。ひとつ摘むと、あちらにはもっときれいな花があるように思えたので、そちらへ走っていき、森の中へますます深く入っていきました。
その間に狼は、まっすぐおばあさんの家へ向かい、戸をたたきました。
「外にいるのは誰だい?」
「赤ずきんよ。ケーキとワインを持ってきたの。開けてちょうだい」
「掛け金を押すだけでいいよ」
と、おばあさんは言いました。
「私は弱っていて、起き上がれないんだよ」
狼が掛け金を押すと、戸が開きました。狼は中へ入り、まっすぐおばあさんのベッドへ向かうと、おばあさんを丸のみにしました。それから、おばあさんの服を取って身につけ、頭にはおばあさんの帽子をかぶり、ベッドに横たわって、カーテンを閉めました。
赤ずきんは、花を探して歩き回っていました。そして、もうこれ以上持てないほどたくさんの花を摘んでから、おばあさんのところへ向かいました。家に着くと、戸が開いていました。赤ずきんはそれを不思議に思いました。部屋の中へ入ると、そこはどこか妙な様子でした。赤ずきんは思いました。
――まあ、どうしたのでしょう。今日はひどく不安な気持ちがするわ。いつもなら、おばあさんのところにいるのがあんなに好きなのに。
それから赤ずきんはベッドへ行き、カーテンを開けました。そこにはおばあさんが横たわっていました。帽子を顔の深くまでかぶり、妙な姿をしていました。
「まあ、おばあさん。なんて大きな耳をしているの!」
「おまえの声を、よく聞くためだよ」
「まあ、おばあさん。なんて大きな目をしているの!」
「おまえの姿を、よく見るためだよ」
「まあ、おばあさん。なんて大きな手をしているの!」
「おまえを、しっかりつかまえるためだよ」
「でも、おばあさん。なんて恐ろしく大きな口をしているの!」
「おまえを、よく食べるためだ!」
そう言うと、狼はベッドから飛び出し、かわいそうな赤ずきんに飛びかかって、丸のみにしました。狼は、よく肥えた獲物を手に入れると、再びベッドに横たわりました。そして眠り込み、ひどく大きないびきをかき始めました。
ちょうどそのとき、猟師が家の前を通りかかり、考えました。
――どうしてあの老女は、あんなに大きないびきをかいているのだろう。少し様子を見なければ。
猟師は家の中へ入りました。ベッドの前まで来ると、そこには、長い間捜していた狼が横たわっていました。
――こいつはきっと、おばあさんを食べたのだ。もしかすると、まだ助けられるかもしれない。撃つのはやめておこう。
猟師はそう考え、はさみを取り出して、狼の腹を切り開きました。二、三度切ると、赤い帽子が光っているのが見えました。さらに少し切ると、女の子が飛び出してきて、叫びました。
「ああ、なんて怖かったのでしょう。狼のおなかの中は、なんて暗かったのでしょう!」
そのあと、おばあさんも生きたまま出てきました。赤ずきんは大きくて重い石を持ってきました。三人はその石を狼の腹の中に詰めました。狼が目を覚ますと、飛び去ろうとしました。しかし石があまりにも重かったので、倒れて死にました。
三人はみな喜びました。
猟師は狼の毛皮をはいで、おばあさんは赤ずきんが持ってきたケーキを食べ、ワインを飲みました。そして赤ずきんは、心の中で思いました。
――母さんにいけないと言われたんだから、私はもう二度と、ひとりで道を外れて森の中へ入ったりはしないわ。
後日談
また、こんな話も伝えられています。
あるとき、赤ずきんが、再び年老いたおばあさんのところへ焼き菓子を持っていくことになりました。すると、別の狼が赤ずきんに話しかけ、道から外れさせようとしました。しかし赤ずきんは用心して、まっすぐ自分の道を進みました。
そしておばあさんに、狼に会ったことを話しました。狼は赤ずきんに挨拶をしましたが、ひどく悪そうな目つきで見ていたのでした。
「開けた道の上でなかったら、きっと私を食べていたわ」
「さあ」
と、おばあさんは言いました。
「戸を閉めて、狼が入ってこられないようにしましょう」
ほどなくして狼が戸をたたき、叫びました。
「開けてちょうだい、おばあさん。赤ずきんよ。焼き菓子を持ってきたの」
けれども二人は黙ったまま、戸を開けませんでした。そこで悪い狼は、何度か家の周りを歩き回り、最後には屋根の上へ飛び乗りました。そして、夕方になって赤ずきんが家へ帰るまで待ち、そのあとをつけて、暗闇の中で食べようとしました。
しかし、おばあさんは狼が何をたくらんでいるのか気づいていました。家の前には、大きな石の水槽がありました。
「桶を持っておいで、赤ずきん」
と、おばあさんは言いました。
「昨日、私はソーセージをゆでたんだよ。そのゆで汁を、この水槽へ運んでおくれ」
赤ずきんは、大きな、大きな水槽がいっぱいになるまで、ゆで汁を運び続けました。すると、ソーセージの匂いが狼の鼻まで上っていきました。狼は鼻をひくつかせ、下をのぞき込みました。
狼は、首をあまりにも長く伸ばしたため、体を支えられなくなりました。狼は滑り始め、屋根から滑り落ちると、まっすぐ大きな水槽の中へ落ちて、溺れ死にました。赤ずきんは、喜びながら無事に家へ帰りました。
<完>
底本:Brüder Grimm: „Rothkäppchen“, in: Kinder- und Haus-Märchen, Band 1, Berlin: Realschulbuchhandlung, 1812, S. 113–118. 本文はWikisource公開版をもとにしています。

なんと、『赤ずきん』には後日談があったんですね!「狼が危険」ということすら知らない無垢な少女だったのに、狼を溺死させて喜ぶなんて、すっかり逞しく成長してしまいました。ソーセージのゆで汁、というのもドイツっぽいですね。
おすすめの書籍
大人の目線で読む、初版グリム童話の怖さや残酷さにもっと触れてみたい方には、こちらの本もおすすめです。子どもの頃に親しんだ童話とは違う、ぞっとするような展開や、人間の欲望がにじむ物語を楽しめます。
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